金融経済

日本への影響は?イギリスのEU離脱のメリットとデメリット

2016年7月20日

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国民投票でEU(欧州連合)からの離脱が決定されたイギリスはこれからEU発足以降初めて離脱の手続きに入ることとなります。イギリスにとってEUから離脱することのメリットとデメリットとは?また当事者の一方であるEUにとっては?これらについてお話していくとともにこれがもたらす世界全体への影響、日本への影響についても考えていきましょう。

 

英国民投票でEU離脱が決定したことによる金融市場への影響

2016年6月23日、イギリスの国論を二分する国民投票はEUからの離脱という結果に終わりました。

まず、これを受けての世界の株価指数や為替レートの反応を見ていきます。

 

世界主要国の株価指数の騰落率(2016年6月24日)

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Bloombergを基に作成

注:各国の株価指数はイタリア FTSE MIB指数、スペイン IBEX35指数、フランス CAC40指数、日本 TOPIX(東証株価指数)、ドイツ DAX指数、オランダ アムステルダム AEX指数、アメリカ S&P500指数、イギリス FTSE100指数、インド S&P・BSEセンセックス、中国 上海総合指数を採用

 

上図は英国民投票の翌日にあたる2016年6月24日の世界主要国株価指数の前日終値に対する騰落率を表したものです。

一目見てイタリアとスペインをはじめ、フランス、ドイツ、オランダとEU加盟国の株価指数が大きく下落している一方で、今回の国民投票の当事国であるイギリスの株価指数の下落率が意外と小さいことがわかります。

また、欧州以外のアメリカや中国、インドの株価指数の下落が軽微なのに対し、日本の株価指数の下落率が相対的に大きくなっているのも目に付きます。

 

世界主要国の為替レート(対USD)の変動率(2016年6月24日)

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Bloombergを基に作成

 

上図は2016年6月24日の世界主要国の為替レート(対USD)の前日に対する変動率を表したものです。

今回の国民投票の当事国であるイギリスのポンドが他を圧倒する下落率となっているのが見て取れます。

一方で、EU加盟国の多くが採用するユーロは、イギリスポンド、韓国ウォンに次いで3番目の下落率となっていますが、下落率の幅で見ればそれほど大きなものではないのがわかります。

また、日本円は他の通貨とは逆に上昇しているのが特徴的です。

日本については直近、円安株高、円高株安といった関係性で動いている節がありますから、日本円の為替レートが円高に振れたことで、先ほど見たように株価の下落率が欧州以外であるにもかかわらず相対的に大きなものとなったと考えられます。

ここまでは英国民投票直後の単日での株価指数と為替レートの動きを見ました。

次に英国民投票前後1ヵ月間の株価指数と為替レートの推移を見ていきます。

 

世界主要国の株価指数の推移(2016年6月17日〜7月15日)

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Bloombergを基に作成

注1:各国の株価指数はイタリア FTSE MIB指数、スペイン IBEX35指数、フランス CAC40指数、日本 TOPIX(東証株価指数)、ドイツ DAX指数、オランダ アムステルダム AEX指数、アメリカ S&P500指数、イギリス FTSE100指数、インド S&P・BSEセンセックス、中国 上海総合指数を採用

注2:2016年6月17日の各々の株価指数を100として算出

 

上図をご覧いただくと意外に思われる方が多いかもしれませんが、実はこの期間に世界の主要国の株価指数の中で最も高い上昇率を示しているのはイギリスになります。

その一方で英国民投票直後の下落からの回復に出遅れているのは日本です。

全体的にも日本以外は英国民投票直前の水準を超えるところまで株価指数が回復している結果となっています。

とはいえ、日本も英国民投票直前の水準に近いところまでは戻していますから、今回の英国民投票のEU離脱という結果を受けての株式市場への影響は比較的軽微であったといえるでしょう。

 

世界主要国の為替レート(対USD)の推移(2016年6月17日〜7月15日)

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Bloombergを基に作成

注1:JPY→日本円、CNY→中国人民元、KRW→韓国ウォン、GBP→イギリスポンド、EUR→ユーロ、RUB→ロシアルーブル、INR→インドルピー、BRL→ブラジルレアル、CAD→カナダドル、AUD→オーストラリアドル

注2:2016年6月17日の各々の為替レートを100として算出

 

一目見てイギリスポンドは英国民投票直後に急落しており、その後も回復していないことがわかります。

それとともに、イギリスポンドのような急落ではないものの、EU加盟国の多くが採用しているユーロも英国民投票直後に下落し、その後も回復していません。

欧州以外では、ブラジルレアルがこの期間中最も堅調な動きを見せており、また、日本円は他の通貨とは逆に英国民投票直後に上昇したものの、その後緩やかに下落に転じています。

為替レートについては、イギリスポンドの下落が顕著であり、この点は今回の英国民投票がEU離脱となったことが影を落としているといえます。

ただ、イギリスポンド以外は総じて英国民投票から1ヵ月を待たずして落ち着きを取り戻しているといって良いでしょう。

それでは、この項の最後に、この間の投資家心理を探っていきたいと思います。

投資家心理を探るには、通常、VIX指数を用います。

VIX指数とは、”Volatility Index”の略で、日本語では「恐怖指数」と訳されています。

これは、シカゴ・オプション取引所(CBOE)が、アメリカの主要株価指数の一つであるS&P500指数を対象とするオプション取引の値動きを基に算出・公表している指数です。

投資家心理を示す数値として利用されており、一般にVIX指数の数値が高いほど投資家が相場の先行きに対する不安心理がはたらいていると考えられます。

目安としては、VIX指数が20を上回る状況になると、投資家の不安心理の高まりを示すとされることが多いです。

それでは英国民投票前後1ヵ月間のVIX指数を見ていきましょう。

 

VIX指数の推移(2016年6月17日〜7月15日)

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Bloombergを基に作成

注:VIX指数はCBOE SPXボラティリティ指数を採用

 

上図をご覧いただくと、英国民投票直後の2016年6月24日に25.76まで上昇しています。

これは先ほどお伝えした目安である20を上回っていますから、投資家の不安心理はかなり高まっているといえます。

しかしながら、20を上回ったのは24日と27日のたった2日間であり、今回の英国民投票でEU離脱という結果を受けて投資家の不安心理が高まったのはごく短期間にすぎません。

また、今回の25.76という高値自体についても、過去の高値、たとえば2008年10月リーマンショック時の89.53という史上最高値からするとそこまで大した上昇とはいえないでしょう。

他にも2011年8月欧州債務危機時の40.28や2015年8月中国に端を発した世界同時株安時の40.74といった今回を上回るVIX指数の上昇局面は多数あります。

こう見ていくと直近やや騒がれすぎといえるかもしれません。

 

イギリスがEUから離脱するメリットとデメリット

たしかに直近金融市場はやや過大に喧伝されている感があります。

しかし、これからイギリスがEUから離脱するにあたって様々な事態が考えられるのもたしかです。

そこで、ここではイギリスがEUから離脱するメリット、そしてデメリットはどのようなものがあるかについてざっくりと見ていきます。

まずはメリットからです。

メリットとしては、①移民問題の一部解決、②EU以外との新たな貿易協定の締結、③EU予算分担金の節約が考えられます。

 

イギリスがEUから離脱するメリット ①移民問題の一部解決

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Office for National Statistics ‘Migration Statistics Quarterly Report – May 2016’を基に作成

 

上図にあるように2010年代以降、EU加盟国からイギリスへの移民が急増しています。

これをEUの意思決定機関による押し付けと捉える向きがイギリス国内で多くなったために今回の英国民投票は離脱に決定したとも言われています。

ですから、イギリスがEUからの離脱した暁にはイギリス国民の意向を踏まえて移民を抑制する動きを見せる可能性が高いといえるでしょう。

 

イギリスがEUから離脱するメリット ②EU以外との新たな貿易協定の締結

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イギリスにとってEUから離脱するということは、EU加盟国との貿易についてはデメリットとなることは否めません。

ただ、これまでEU加盟国であったが故にEU加盟国間で足並みを揃えなければならなかったところが、EUから離脱することによりこの足枷から解放されるという見方もできます。

あくまでもイギリス政府とEU以外の国の政府との交渉次第ではありますが、新たな貿易協定を締結することで、現状でEUに残留するよりも長期的に大きな果実を得られる可能性があることは否定できないでしょう。

 

イギリスがEUから離脱するメリット ③EU予算分担金の節約

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EUROPA – European Union website, the official EU websiteを基に作成

 

2015年現在、イギリスはEU予算全体の約11%、金額にして約136億ユーロに及ぶ負担をしています。

これは上図にあるようにEU加盟国の中でもイタリアと並ぶ3番目に多い金額であり、この負担分をEUから離脱することで節約できるのは大きいといえます。

ただし、これとは逆にイギリスがEUから享受してきた経済的利益を放棄することになるわけですから、どの程度相殺されるかという問題は残ります。

次にデメリットを見ていきましょう。

デメリットとしては、①短期的に経済全般にダメージを与える、②EUとの貿易にマイナスの影響、③スコットランドや北アイルランドがイギリスから独立の可能性が考えられます。

 

イギリスがEUから離脱するデメリット ①短期的に経済全般にダメージを与える

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HM Treasury(英国財務省)を基に作成

 

上図は英国財務省が試算したイギリスがEUから離脱することによる2年後という短期の経済への影響を表したものです。

影響が小さい場合と大きい場合に分けて計算されています。

これによれば、GDP-3.6%:-6.0%、インフレ率+2.3%:+2.7%、失業率+1.6%:+2.4%、平均実質賃金-2.8%:-4.0%、住宅価格-10%:-18%、為替-12%:-15%となっています。

また、これとは別に失業数52万人:82万人という試算も出されています。

これを見るとEUから離脱することはイギリス経済に大きな影を落とすように見えます。

ただし、この試算はあくまでも仮定に仮定を重ねたものですし、調査機関等によってはイギリスがEUから離脱することで経済的にプラスの効果があるとしているものもありますので、どの程度確度があるのかを判断するのは難しいところです。

 

イギリスがEUから離脱するデメリット ②EUとの貿易にマイナスの影響

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HM Treasury(英国財務省)を基に作成

 

上図も英国財務省が試算したものです。

ここではイギリスがEUから離脱後、EUとの関係性を3つのモデルに分けて15年後という長期の経済への影響を表したものです。

3つのモデルとは、ノルウェーモデル、スイスモデル、WTOモデルのことです。

ノルウェーモデルとは、EU非加盟であるものの、EEA(欧州経済領域)には参加し、EUとの緊密で広範囲な経済関係を維持、シェンゲン協定加盟国として欧州諸国との自由な往来を続けるというものです。

スイスモデルとは、EU非加盟かつEEA(欧州経済領域)不参加ですが、EEFA(欧州自由貿易連合)に加盟し、EUとの個別協定を締結、サービスのアクセスが限定的である一方、労働力、資本、商品の移動は自由というものです。

WTOモデルとは、EUから完全に離脱し、WTOのルールの下でEUと貿易を行うというもので、他の国と同一の関税がかけられるというものです。

これらのモデルごとに試算すると、GDPはそれぞれ15年後、ノルウェーモデル-3.8%、スイスモデル-6.2%、WTOモデル-7.5%となっています。

また、税収純減はノルウェーモデル-200億ポンド、スイスモデル-360億ポンド、WTOモデル-450億ポンドと出されています。

ただ、ノルウェーモデルとスイスモデルは移民の制限を行いたいイギリスにとっては受け入れ難いでしょうし、またWTOモデルは関税の負担を考えるとできるだ避けたいものといえるでしょう。

こう考えていくと現実的にどういった選択をするかが見えにくい上、別途EU以外との新しい貿易協定の締結の可能性も十分ありますから、この予測のとおりになる可能性は極めて低いと言わざるを得ません。

 

イギリスがEUから離脱するデメリット ③スコットランドや北アイルランドがイギリスから独立の可能性

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上図で青で塗っている地域は離脱優位、赤で塗っている地域は残留優位です。

ちなみに細分化して地区ごとに見ていくと上図よりも青と赤が入り混じることになりますが、ここでは4つの地域区分で塗り分けていますので、この点はご注意ください。

一目見てイングランドとウェールズが離脱優位、北アイルランドとスコットランドが残留優位であることがわかります。

スコットランドは2014年にイギリスからのスコットランド独立の是非を問う住民投票を行っており、この時は上図のように独立反対が多数のために分裂は回避されました。

しかしながら、EU残留を望む有権者が多いスコットランドは、今回の英国民投票でイギリスがEUからの離脱を決定したことで、再度イギリスからの独立の是非を問う住民投票を求める声が上がっています。

ただ、スコットランドがイギリスから独立した上でEU残留を果たせるのかというと、EU側にとってメリットが極めて薄いために懐疑的な向きも少なくありません。

そう考えると、スコットランドと同じくEU残留優位であった北アイルランドからイギリスからの独立を求める声が上がり、仮にEU加盟国で単一通貨ユーロを採用しているアイルランドとの統一を果たそうとする動きが出てくるほうが、イギリスにとって現実味のある分裂騒動となるでしょう。

ここまでで、イギリスがEUから離脱することのメリットとデメリットについて見てきました。

ただ、注意点として2つ挙げておきたいと思います。

1つとしては、メリットとデメリット、各々が仮定に仮定を重ねたものであって、現実のものとなるかどうかは極めて不透明であるという点です。

とくに共通していえるのは、現状のEUの体制がある程度維持されることを前提としているので、EUが制度上の脆弱性を見せて再編や悪くすると瓦解していくと、イギリスにとってEUから離脱することで生まれるメリットやデメリットがどうなるのかは正直わからないと言わざるを得ません。

また、もう1つとしては、そもそもイギリスがEUから離脱できるのかどうかという点です。

現状では以下のようなリスボン条約50条に基づく離脱手続きとなることが濃厚とされています。

 

リスボン条約50条に基づくEU離脱プロセス

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the Lisbon Treatyを基に作成

 

しかしながら、EUの歴史を振り返れば、これまで加盟国を増大してきた一方で、EUからの離脱に踏み切った国はありません。

また、今回の英国民投票は法的な拘束力がないということも見逃せないことです。

これらからすると、たとえリスボン条約50条に基づいてイギリス政府がEUからの離脱に向けた欧州理事会への通知を行い、イギリス政府の特別チームと欧州理事会の交渉チームによる交渉が進められたとしても、本当に離脱まで行き着くのかどうかはまだ神のみぞ知るといったところでしょう。

ただ一ついえるのは、今回の英国民投票がEUからの離脱に決定した時点から数年単位で欧州全体の経済情勢は一寸先は闇の不透明感に包まれたということです。

これからの情勢の変化を注視して見ていくことこそ最も重要といえます。

今回の特集もこれからの情勢を見極めるための一助としていただければ幸いです。

 

*目次

【予告】特集:英国民投票はEU崩壊への道筋を示すのか?

【第1回】崩れ去る国家ではない未来の形〜EU(欧州連合)とは何か?

【第2回】GDPは?成長率は?EU経済の過去と現在

【第3回】英国民投票の衝撃!なぜEU離脱は決定されたのか?

【第4回】日本への影響は?イギリスのEU離脱のメリットとデメリット

 

 

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