日本経済

ヘリコプターマネー政策は日本経済の特効薬となるか?

 

 

アベノミクスの評価を失敗と断ずる声も少なくない中、ヘリコプターマネー政策の是非を巡る議論が盛んにされています。ただ、定義付けが正確になされないまま議論されている節も。そこで今回はヘリコプターマネー政策とは一体何か、そのメリットやデメリット、政府や日銀が実施を否定する理由、それでも日本で行うべきか否かについてお話していきます。

 

ヘリコプターマネー政策とは〜まず正確な定義付けを〜

おそらく多くの方がヘリコプターマネーという言葉を聞くと以下のようなイメージを持たれることでしょう。

 

ヘリコプターマネーのイメージ

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実はこのイメージがヘリコプターマネー政策を正しく定義付けするのに重要になってきます。

このヘリコプターマネーという言葉を最初に用いたのは経済学者のミルトン・フリードマンで、1969年に発表した論文「貨幣の最適量」の中で、比喩として、「ある日、ヘリコプターが飛んできて空からお札をばら撒いたとしよう。すると人々はそれを素早く拾うだろう。これが1回限りの出来事と知っていればとくに。そしてそのお金を人々が消費や投資することで物価は確実に上がるだろう。」と分析しています。

つまり、ヘリコプターマネー政策とは、世の中のお金の量を確実に増やす手段のことを指します。

ここで物価について簡単に説明しておきます。

 

インフレとデフレ

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インフレは物価が継続的に上昇すること、デフレは物価が継続的に下落することです。

インフレ、デフレは世の中のお金の量とモノやサービスの量によって決まります。

この関係を表すと上図のようになり、インフレは「お金の量>モノやサービスの量」、デフレは「お金の量<モノやサービスの量」となります。

ここで、ヘリコプターマネー政策は世の中のお金の量を確実に増やす手段ですから、デフレから脱してインフレに転換することを意図して行われるものということができます。

日本は長らくデフレ不況に苦しめられており、現政権である安倍政権の経済政策(アベノミクス)でもデフレ脱却が至上命題となっています。

そこで、「日本でヘリコプターマネー政策を導入してはどうか」という議論が起こっているわけです。

それでは、日本でこのヘリコプターマネー政策を導入するとして、具体的にどのように実施することが考えられるでしょうか。

まさか本当にヘリコプターを飛ばして空からお札をばら撒くわけにはいきませんよね。

これを考えていくためには、まず、実際にお札(通貨)を発行している日本の中央銀行である日本銀行(以下、日銀)による通貨発行の仕組みを理解しておく必要があります。

 

日銀による通貨発行の仕組み〜国債の「買いオペ」と「引き受け」〜

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日銀による通貨発行は、主に政府が発行する国債を日銀が買い取ることによって行われます。

買い取り方法は上図のように2つあります。

新たに発行された(新発の)国債を日銀が直接買い取る方法を引き受け、既に発行された(既発の)国債を日銀が金融市場から買い取る方法を買いオペといいます。

現状の日銀による金融政策(金融緩和)は、主に後者によって行われています。

ここでヘリコプターマネー政策の具体的な方法に戻りましょう。

一つの方法論として、政府が無利子の永久国債を発行し、これを日銀が引き受けることで通貨発行し、これとともに政府が財政出動するというものがあります。

 

ヘリコプターマネー政策の具体例

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永久国債とは、その名の通り、償還期限(満期)の定めのない国債のことをいいます。

政府がこれを保有期間中利子を払わない、つまり無利子で日銀に買い取ってもらい、日銀はこれを買い取る際に通貨発行して政府に支払います。

そして、政府はここで得たお金を消費対策や減税、公共投資といった財政出動によって家計や企業に行き渡らせるようにします。

この一連の流れによって、先ほど申し上げたように世の中のお金の量が確実に増えることになり、デフレからインフレへの転換を図れるというわけです。

 

政府や日銀がヘリコプターマネー政策を否定する理由

ここまでお聞きいただくと、「そんなにいい政策ならさっさとやればいいのでは・・・」と思われた方も少なくないかもしれません。

しかし、このヘリコプターマネー政策については、政府・日銀ともに否定的な見解を持っています。

なぜでしょうか。

それは法律の壁が存在しているからです。

財政法第5条によると、「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。」とされています。

つまり、先ほど説明した日銀による通貨発行の仕組みのうち国債の引き受けは原則として法律上禁止されているというわけです。

一方で、もう1つの買いオペについては法律上何ら問題なく行えます。

これを国債の市中消化の原則といいます。

 

国債の市中消化の原則〜日銀による国債の引き受けは原則禁止〜

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それではなぜ日銀による国債の引き受けは法律上禁止されているのでしょうか。

これについては、日銀が以下のように公式に見解を述べています。

 

これは、中央銀行がいったん国債の引受けによって政府への資金供与を始めると、その国の政府の財政節度を失わせ、ひいては中央銀行通貨の増発に歯止めが掛からなくなり、悪性のインフレーションを引き起こすおそれがあるからです。そうなると、その国の通貨や経済運営そのものに対する国内外からの信頼も失われてしまいます。これは長い歴史から得られた貴重な経験であり、わが国だけでなく先進各国で中央銀行による国債引受けが制度的に禁止されているのもこのためです。

日本銀行HP「日本銀行が国債の引受けを行わないのはなぜですか?」より

 

要するに、政府と日銀の二者間で無制限に通貨発行し財政出動できる体制を法律上許容してしまうと、財政規律が保たれなくなり、インフレに歯止めがかからなくなるおそれがあるというわけです。

たしかに現状のデフレ脱却、デフレから脱しインフレに転換することを優先させるあまり、将来的にインフレが行き過ぎてしまうのは大きな問題でしょう。

ただ、巷間誤解されている方も見受けられますが、日銀による国債の引き受けは全面的に禁止されているわけではなく、一部例外が認められていることも知っておいてほしいところです。

これは先の財政法第5条の但書で「但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りではない。」と明文化されています。

この条文にある”特別な事由”とは、現状では、日銀が保有している国債に償還期限が到来し、国による借り換えの必要性がある場合のことを指すと解釈されています。

とはいえ、この”特別な事由”はほぼ毎年度発生していますので、特別と言いつつ常態化しているわけですが・・・。

 

日本経済の特効薬となるヘリコプターマネー以外の政策手段は・・・

法律上原則禁止とされている以上、日銀による国債引き受けを利用したヘリコプターマネー政策は現実的ではありません。

ただ、それでは日本経済にとって現在の経済政策のままで問題ないといえるのでしょうか。

これを考えるにあたっては、日本経済の現状を見ていく必要があります。

あまり細部に拘ると全体が見えなくなってしまいますので、ここでは政府と日銀がそれぞれ定量的な政策目標として掲げている名目GDP600兆円と物価安定目標インフレ率年2%に対する2015年までの達成度合いを見ていきましょう。

 

日本経済の現状〜名目GDPと経済成長率〜

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内閣府「国民経済計算」、IMF – World Economic Outlook Databasesを基に作成

注:経済成長率は実質GDP成長率を指す

 

上のグラフは2003〜2015年の13年間の名目GDPと経済成長率を表したものです。

一目見てお分かりいただけるように、この間、日本の名目GDPはずっと500兆円前後で推移しています。

アベノミクス開始後の2013〜2015年の直近3年間で見ても、479兆円→486兆円→499兆円と増加こそしているものの、この増加速度では政策目標である名目GDP600兆円を達成するのはいつになるのかわかりません。

また、経済成長率を見ても、直近3年間のうち消費税率引き上げ(5%→8%)を実施した2014年には-0.03%というマイナス成長に陥っており、2013年と2015年にしても各々+1.36%、+0.47%という低成長に止まっています。

一方、日銀の政策目標である物価安定目標インフレ率年2%の達成度合いはどうでしょうか。

 

日本経済の現状〜インフレ率〜

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総務省統計局「消費者物価指数年報 平成27年」を基に作成

 

上のグラフは2003〜2015年の13年間、消費者物価指数の総合(以下、CPI)・生鮮食品を除く総合(以下、コアCPI)・食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合(以下、コアコアCPI)の対前年比の推移を表したものです。

一目見てお分かりいただけるように、アベノミクスが開始され日銀が黒田総裁の下で新体制が発足した2013年以降、2014年にはコア対前年比でCPIとコアCPIが年2.6%と物価安定目標を上回り、コアコアCPIも年1.8%と物価安定目標に近い水準まで上昇しています。

しかし、2014年4月からの消費税率引き上げ(5%→8%)による消費の落ち込み等の影響を受けて、2015年にはCPIが年0.8%、コアCPIが年0.5%、コアコアCPIが年1%と再度下落に転じてしまいました。

アベノミクス以前に比べるとインフレ率がマイナスに陥っていないため改善されているといえますが、物価安定目標インフレ率2%の達成にはまだほど遠いといえるでしょう。

それでは、なぜ政府や日銀の政策目標に対する現在の進捗状況が思わしくないのでしょうか。

その原因の一つとして、世の中にお金の量が十分行き渡っていないことが挙げられます。

2013年4月に発足した黒田日銀体制下では、大胆な金融政策として金融緩和を相応の質量で実行しています。

この金融緩和の梃入れとして、2014年10月のハロウィン緩和や2016年2月のマイナス金利政策導入も記憶に新しいところです。

しかし、それでも世の中にお金の量が十分行き渡っていかないのは、金融市場にお金が滞留して、実体経済へのお金の流れを堰き止めてしまっていることが考えられます。

 

日本経済の現状〜金融市場から実体経済へお金が流れていかない〜

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上図のように、日銀は金融市場から既発の国債を買い取る代わりに通貨発行して金融市場にお金を供給しています。

日銀がその役割からできるのはここまでです。

日銀からすると、その後に金融市場から実体経済、つまり家計や企業にお金が流れるように操作することはできません。

そして金融市場から実体経済にはお金が十分流れていない現実があるわけです。

それではどうすれば良いのでしょうか。

最早打つ手なしと諦めざるをえないのでしょうか。

一つ実現可能性のある政策手段があります。

それは、日銀の金融緩和とともに政府が財政出動するというものです。

金融市場から実体経済へとお金が流れないのであれば、国債発行によって金融市場から吸い上げたお金を政府が財政出動によって流し込んでしまおうということになります。

これは何も目新しい政策手段ではなく、当初から提唱されているアベノミクス3本の矢のうち第1の矢である大胆な金融政策と第2の矢である機動的な財政政策を協調的に行うだけです。

このように複数の政策手段を同時に適用して政策目標を達成させようとすることをポリシー・ミックスといいます。

 

金融緩和と財政出動のポリシー・ミックス「財政金融政策」

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上図をご覧いただいてお気づきになられた点はないでしょうか。

先ほどヘリコプターマネー政策の具体例で提示した政府が無利子の永久国債を発行し、これを日銀が引き受けることで通貨発行し、これとともに政府が財政出動するというのに似ていますよね。

実は、このアベノミクスの財政金融政策は実質的にヘリコプターマネー政策とほぼ同様の効果が期待できると考えられます。

つまり、実体経済、世の中のお金の量を確実に増やすことで、デフレを脱しインフレへの転換を図り、そして名目GDPを増加させるということです。

しかも、アベノミクスの財政金融政策では、法律上原則禁止とされる日銀による国債の引き受けは行いませんので、ヘリコプターマネー政策を直接的に行うよりも実現可能性が高いといえます。

しかしながら、ヘリコプターマネー政策とアベノミクスの財政金融政策、この両者には相違点もあります。

 

ヘリコプターマネー政策とアベノミクスの財政金融政策の違い

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日本経済新聞(2016年5月29日朝刊)を基に作成

 

上表のように、ヘリコプターマネー政策とアベノミクスの財政金融政策、両者ともに足元の財政赤字が拡大する点は共通していますが、公的債務残高はヘリコプターマネー政策が不変であるのに対し、アベノミクスの財政金融政策が拡大、またマネーの拡大はヘリコプターマネー政策が恒久的であるのに対し、アベノミクスの財政金融政策が一時的なものとなります。

ここではこれ以上の深入りは避けますが、アベノミクスの財政金融政策の効果をヘリコプターマネー政策の効果により近づけるためには、これらの違いをできる限り解消していく必要があります。

そして、そのためには、政府と日銀がより強力に協調して政策実行できるかにかかっているといえます。

もちろん、現行の法律で許容される範囲内で。

以上のように、巷間で否定的見解が多くても、現在の日本経済にとってヘリコプターマネー政策は特効薬となり得ますし、実現可能性の高さからいえば、政府と日銀はヘリコプターマネー政策に近いアベノミクスの財政金融政策を実行していく必要があると考えます。

 

 

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