以前の記事(※)で、日本はこれから長期的にインフレになる可能性が高いので低金利の銀行預金にお金を預けておくのは得策ではないとお話しました。すると「インフレになると金利も上がるのでは?」という疑問に思われた方もいるのではないでしょうか?そこで今回はインフレと金利の関係からインフレ対策の必要性について考えていきましょう。
※ 「お金は銀行に預けるな」は本当に正しいのか?を参照のこと。
インフレとは?デフレとは?
まず、インフレとその反対のデフレについて復習しておきましょう。
インフレとは
物価が継続的に上がり、貨幣価値(現金の価値)が下がっていく状態
デフレとは
物価が継続的に下がり、貨幣価値(現金の価値)が上がっていく状態
このように、物価とは”モノやサービスの価値”ですから、貨幣価値である”現金の価値”と「一方が上昇すれば、もう一方が下落する」という関係にあります。
日本が今後インフレになる可能性が高いのはなぜか?
それでは、なぜ日本が今後インフレになる可能性が高いといえるのでしょうか?
それは、一言でいってしまえば、政府や中央銀行である日銀がインフレに誘導する金融政策を採用しているためです。
2015年現在、現政権である安倍政権ではアベノミクス(※)と呼ばれる経済政策を行っています。
※ アベノミクスについてはこちら(今さら聞けない!?アベノミクスとは?〜成功か失敗かを語るその前に〜)を参照のこと。
このアベノミクスは安倍晋三首相が政権の座についた2012年末より開始され、現在では変更されている点もいくつかありますが、安倍政権の下で日銀が主導している金融政策は相変わらず異次元緩和とも呼ばれる金融緩和政策を実施しています。
この異次元緩和、金融緩和政策は、正式にはQQE(量的質的緩和政策)のことで、日銀が誘導している政策金利(無担保コール翌日物)をゼロ近くに据え置いたまま(これを「ゼロ金利政策」といいます)、マネタリーベースを増加させることを意味します。
このマネタリーベースとは、通貨発行権を有する中央銀行である日銀が、民間銀行などの金融機関に供給しているお金の残高のことです。
ここから先は深入りするのを避けますが、要するにマネタリーベースを増加させることで現金の量を増やすことで、意図的に貨幣価値(現金の価値)を下げ、相対的に物価を上げる、つまりインフレに誘導するための政策です。
アベノミクスでは、この日銀の金融緩和政策で、消費者物価指数を継続的に年2%に引き上げることを目標(これを「インフレターゲット」といいます)としています。
年2%のインフレとはどのようなものなのか?
それでは、日銀の金融緩和政策が成功を収めて、年2%のインフレが達成した場合、どのようなことが起こるのでしょうか?
先ほどのインフレの定義に戻っていただきたいのですが、インフレとは物価が上がるとともに相対的に貨幣価値(現金の価値)が下がることです。
ですから、物価が2%上がるということは、貨幣価値(現金の価値)が2%下がることを意味します。
たとえば、今日現在、1000万円の現金を保有していたとします。
これが1年後、年2%のインフレとなったら、1年後の1000万円は今日現在の980万円(=1000万円×(1-0.02))分の価値しかないということになります。
ここで、72の法則を思い出してください。
この72の法則とは「元本を2倍にする場合の年数と運用利回り(複利)が簡単に求められる法則」のことで、「a(%、年複利)× z(年)=72」の計算式で求められましたね。
たとえば、今日現在、1000万円の現金を保有していたら、年2%の運用利回り(複利)で運用したとすると、36年(=72÷2%)後に2000万円になります。
ということは、年2%のインフレが継続した場合、今日現在では1000万円で購入できていたモノやサービスが、36年後には倍の2000万円支払わなければ購入できなくなるということですよね。
つまり、これを言い換えると、今日現在の1000万円の現金は、36年後には半分の500万円分の価値しかなくなってしまいます。
これが、インフレによる現金の価値が目減りするということです。
「インフレになると金利も上がるから対策不要」で本当に大丈夫?
理論上、インフレになると、金利も上がっていくというのは本当です。
ただ、現実にそうなっているかどうかが問題です。
以下のグラフをご覧ください。
出典:http://www.shigagin.com/index.html
これは、1995年以降の20年間の消費者物価指数(全国、前年同月比)と定期預金金利を年換算の%でそれぞれ表したものです。
いかがでしょうか?
少なくとも、直近20年間では、物価が上昇しても、金利は上昇していません。
たしかにこのグラフにツッコミどころがないかと言われれば、正直あります。
というのは、物価の上昇が継続的ではなく断続的なものに止まるため、物価が継続的に上昇するインフレとは言い難い直近20年間といえるからです。
しかしながら、これだけはたしからしいこととしていえます。
物価が継続的に上がる、つまりインフレになった場合、理論通りに金利が上がるとしても、インフレ率と同等の金利となるまでにはかなり大きなタイムラグが生じるということです。
このタイムラグがどのくらいになるかは定まっていません。
ただ、これを甘く見て金利が上がるまでの間にインフレが進行してしまえば、皆さんが保有する現金の価値がどんどん目減りするということになってしまうということだけはいえます。
まとめ
資産形成や資産運用は、原則として最悪のリスクシナリオを想定して実行するものです。
ですから、現実に起こりうる最悪のリスクシナリオに基づいてインフレ対策を行い、そのために資産形成や資産運用について学び実践することには意味があるのです。