高齢化社会となった現在の日本で「老後破産」が社会問題となっています。一方で財政赤字が喫緊の課題である現在においては豊かな老後の生活を過ごすためには皆さん一人ひとりが老後資産形成をすることが必要不可欠です。そこで今回はとくに30、40代の皆さんのために老後破産対策のために今からできる資産形成の方法をお伝えしていきます。
高齢者世帯の約4割!?「老後破産」の原因とは?
上記の参考記事によれば、高齢者世帯の約4割が「老後破産」状態にあるといいます。
それでは、なぜ約4割もの高齢者世帯が「老後破産」状態、つまり生活保護基準よりも低い収入での生活を余儀なくされてしまっているのでしょうか?
これも上記の参考記事に沿ってお話すれば、主に4つの原因が考えられます。
以下に一つずつ説明していきましょう。
「老後破産」の原因1. 年金が生活費よりも少ない
生命保険文化センターの統計によれば、世帯主が60歳以上の無職世帯(2人以上の世帯)の1ヶ月間の収入と支出をみると、実収入から税金や社会保障料を差し引いた実際に消費に回すことができる金額(可処分所得)は月額平均176,383円、これに対して実際の消費支出は月額平均247,251円となっています。
するとこの可処分所得額176,383円から消費支出額247,251円を差し引いた70,868円が毎月不足する金額ということになりますね。
そこで、多くの高齢者世帯ではこの不足分を穴埋めするためにこれまでに貯めておいた貯蓄を切り崩して不足分を補いながら生活をしています。
ただ、これが切り崩しきってしまった場合やそもそも切り崩していくだけの貯蓄がない場合は、その時点で「老後破産」状態となってしまうことも少なくないのです。
「老後破産」の原因2. 医療費を使いすぎてしまっている
通常の保険診療であれば、健康保険が7割負担してくれますから、残った3割が自己負担ということになります。
しかし、厚生労働大臣が定めた高度な医療技術を用いた療養である先進医療を受ける場合、その先進医療にかかる医療費は全額自己負担しなければなりません。
また、保険が適用されない診療である自由診療を受ける場合、自由診療にかかる医療費のみならず本来健康保険が適用される医療費も全額自己負担となってしまいます。
ですから、先進医療や自由診療を受けるとあっという間に医療費だけで数百万円を超えてしまうことは十分考えられることです。
これは、極力健康保険の効く通常の保険診療を受けること、またどうしても高額医療が必要な場合は「高額療養費制度」を利用することで支出を抑えることは可能です。
ただこういった制度の存在や仕組みを知らない方も多いため、思いがけず高額医療が必要な病気になって「老後破産」状態になってしまうケースというのは実際に多々あります。
「老後破産」の原因3. 子どもの借金の返済を負担してしまっている
これは多くの方が「子どもが作った借金は自分で返済させれば良いのでは?」と思われたのではないでしょうか?
まさしくその通りなのですが、現実にはお子さんの借金の返済を肩代わりすることで、結果的にご自身の老後資金を使ってしまい、果ては「老後破産」状態に追い込まれるケースは多々あります。
また、お子さんの借金の返済を肩代わりするわけでなくとも、相続対策の一環としてお子さんに生前贈与したまでは良いですが、その後想定していた以上に生活費等がかかってしまい、生前贈与をした高齢者世帯の方が生活に困窮してしまうケースも見受けられます。
「老後破産」の原因4. 定年を過ぎて退職後も住宅ローンが残ってしまっている
これは1つ目に原因として挙げた「年金が生活費よりも少ない」ことから考えれば当然の帰結といえるでしょう。
本来であれば年金で賄いきれない生活費の不足分を貯蓄を切り崩すことでようやく成り立つ生活です。
それが、生活費の不足分に回せずに住宅ローンの返済に回さざるを得ない状況なわけですから、住宅ローンの利息負担も大きくのしかかってきて「老後破産」状態に追い込まれるケースは後を絶ちません。
ここまでで、「老後破産」の主な原因を4つ挙げて説明してきました。
この中でもすべての方に関係している原因は1つ目の「年金が生活費よりも少ない」ということです。
とくに20〜40代の現役世代の方にとっては、これからますます年金の受給額が下がっていくことが想定されます。
現在の高齢者世代でも多くの方が「老後破産」に追い込まれたり、そこまででなくても日々の生活に四苦八苦しているといった状態なのです。
これが受給額がさらに減り続けていく中でご自身が高齢者世代になった場合にどういうことになるかは容易に想像がつくでしょう。
この点をよくご理解いただいた上で、老後資金の準備という「転ばぬ先の杖」を用意することの大切さを考えていただければと思います。
「老後破産」を避けるために 老後資金の準備はいくらあれば足りる?
「老後破産」を避けるために、みなさんが公的年金の受け取り以外で準備する必要のある資金の総額は一体いくらあれば足りるでしょうか?
老後資金の準備と一口にいっても、みなさんが会社等を定年退職して老後の生活に入ってから生を全うされるまでの間にいくらの資金を準備する必要があるかというのは、みなさんの家族構成、現状の保有資産や収支状況、そして実際に何歳で生を全うされることになるかによって大きく異なります。
ですから、ここからお話する老後資金の準備の総額はあくまでも一つの目安として捉えてください。
この点については以前の記事でご紹介したことがありますので、以下に引用します。
現状ですと、退職後のご夫婦が経済的に一定以上のゆとりを持って生活するためには毎月35.4万円必要といわれています(生命保険文化センター「生活保障に関する調査」/平成25年度より)。
60歳から80歳までをご夫婦で毎月35.4万円で生活した場合、8496万円(=35.4万円/月×12ヶ月×20年)が総額で必要になります。
一方、公的年金は夫が厚生年金(第2号被保険者)、妻が国民年金(第3号被保険者)だったとすると、それぞれ平均年金月額は14.8万円、5.5万円です(厚生労働省 平成25年度厚生年金保険・国民年金事業の概況についてより)。
公的年金を65歳から受給すると考えると、3654万円(=(14.8万円/月+5.5万円/月)×12ヶ月×15年)が80歳までに受け取れる年金の総額となります。
よって、差し引きすると、4842万円(=8496万円ー3654万円)が不足分となるわけです。
ここで少し補足しておくと、直近の平均寿命は男性が約80歳、女性が約86歳ですので、今回は夫婦ともに80歳で生を全うされた場合で計算しました。
またこの点は十分ご注意いただきたいところですが、公的年金制度は将来的に受給総額が減少することや受給開始年齢が引き上がることによって一層厳しくなることが想定されます。
そう考えると、キリ良く計算するためということもありますが、老後資金の準備の総額としては最低ラインで5000万円は確保しておく必要があると捉えておいた方が良いでしょう。
「老後破産」対策 老後資金の準備は40代からで十分間に合う?
老後資金の準備は40代からというその開始時期として良いと言われることが多いです。
まず一言で結論から言ってしまえば、老後資金の準備の開始時期は早ければ早いほど良いということになります。
先ほどお話したように老後資金の準備の総額が最低5000万円であるとすると、「定年退職する60歳までに5000万円を貯める」というゴールが決まります。
このゴールから逆算して、月々いくらずつ積み立てて、金利や運用利回りが年何%あれば良いかというのを計算するのは簡単に計算できます。
つまり、ゴールの年齢と金額が決まっているわけですから、老後資金の準備の開始時期、スタートを早く設定すればすれほど月々の積み立て額を少額で、また金利や運用利回りの年利を低く見積もることができるため、みなさんの負担は減ることになります。
ここで一つ例を挙げておきます。
ここに40歳、30歳、20歳の3名がいたとします。
それぞれ老後資金の準備として「60歳までに5000万円を貯める」ことを目標にしています。
ここで3名ともにここでは月5万円ずつ積み立てていったとした場合、年何%の利回りがあれば目標に到達することができるでしょうか?
さてこれを計算するためにはMORNINGSTARの金融電卓を活用すると大変便利です。
これは資金、毎月の掛金、年数、目標金額を入力すると、自動計算で必要となる年間の運用利回りを算出してくれるという便利なツールです。
今回は3名に共通して資金は0円、毎月の掛金は5万円、目標金額は5000万円。年数は60歳からそれぞれの年齢を引いたものになりますから、40歳が20年、30歳が30年、20歳が40年となります。
さてそれではこの数字を入力して年間の運用利回りを計算してみると、以下のような結果が出ました。
40歳 → 年12.1%
30歳 → 年6.0%
20歳 → 年3.4%
上記のようにかなり大きな差が生まれることが一目でわかるかと思います。
ちなみに銀行の普通預金が年平均0.02%という超低金利時代ですので、どの世代にも共通していえることは、上記の例のように元手となる資金を0として毎月コツコツ積み立てて老後資金の準備していくためには預貯金以外の金融商品で運用する必要があるということです。
またかなり変動がありますが、株式投資を行なうとして現状の日経平均の益利回りは5〜6%程度となっています。
リスクをかなり上げても現状では10%以上の運用利回りで資産形成していくのはかなりハードルが高いと考えていただいた方が良さそうです。
そう考えると、上記の例のように月5万円で目標の「60歳までに5000万円を貯める」には20〜30代から開始するのが望ましいといえるでしょう。
それでは40代の方はどうすれば良いかといえば、少々ハードルは上がってしまいますが元手となる資金なしで目標まで到達させるには月々の積み立て額を引き上げるという結論になります。
先ほどの例で40歳の方が資金0円、月10万円積み立てたとすると、年間の運用利回りは6.7%と算出されます。
これは現状から考えればギリギリのラインといえそうです。
もちろん既にいくらかの元手となる資金がある方もいらっしゃるでしょうし、月々の掛金を無理のない金額と考えた時に5万円では多過ぎるという方や逆に少な過ぎるという方様々でしょう。
また先ほども申し上げたとおり「60歳までに5000万円を貯める」というのも、たとえば定年退職した後も働いて収入を得る予定なのでそこまで貯める必要がないという方もいらっしゃるでしょうから、あくまでも目安に過ぎません。
ただ「老後破産」を避けるための対策は必要不可欠ですので、みなさんそれぞれでご自身やご家族の状況に合わせて、目標を立て、そこから逆算して月々いくら積み立てて年何%で運用する必要があるかをまずは知ることから始めていただきたいと思います。
【老後破産対策】老後資金準備のための貯蓄方法
老後資金準備のゴールとして「定年退職をする60歳までに5000万円を貯める」とお伝えしました。
ここではみなさんの年齢が現在30歳であるとしましょう。
そうするとこの老後資金準備のゴールは「30年間で5000万円を貯める」と言い換えることができます。
この場合、まず一切運用を考えずに毎月の収支差額(収入-支出)の黒字分で貯めていくとすると月いくらを貯蓄に回す必要があるか考えてみましょう。
これは約14万円/月(=5000万円÷30年÷12ヶ月)です。
ちなみに年間では約167万円/年(=5000万円÷30年)となります。
これはかなりハードルが高いと思われたのではないでしょうか?
仮に年2回のボーナスで調整をかけるとして毎月の貯蓄を5万円/月に抑えた場合でも、約167万円/年から年60万円(=5万円/月×12ヶ月)の差額100万円超をボーナスから貯蓄に回さなければならないわけですから、現実的に無理があると言わざるをえないでしょう。
そこで単純な貯蓄に運用を加えることがこの問題を解決する糸口になります。
そうするとこの場合、「毎月5万円ずつ貯蓄し、運用利回り年6%で運用すれば、30年後に5000万円貯まる」ことになります。
これだと毎月の貯蓄の観点から見ればだいぶ気が楽になったのではないでしょうか?
先ほどのようにさらに年2回のボーナスで調整をかけるとすると、毎月の貯蓄を2万円/月、年2回のボーナスでの貯蓄を1回につき18万円(=(5万円/月ー2万円/月)×12ヶ月÷2)すれば良いことになります。
これでだいぶ気が楽になったのではないでしょうか?
それではここから貯蓄の方法について考えていきます。
ここでのポイントは「自動的に貯蓄できる仕組みをつくる」ということです。
30年間というのは長期間にわたるものですから、いくら”継続は力なり”と意識的に根気強く貯蓄していこうと思っても”言うは易く行なうは難し”というのが現実でしょう。
そこで、たとえば給与天引きで自動的に貯蓄できる仕組みを作ってしまえば、普段から意識していなくても勝手に貯蓄されていくわけですから、努力感なく貯蓄ができるというわけです。
それではこの”自動的に貯蓄できる仕組み”とはどういったものでしょうか?
これは実に様々な方法が考えられます。
ここでは例として以下に3つ挙げておきます。
1. 確定拠出年金(401k)
2. NISA口座での株式や投資信託の積立投資
3. 月払いの変額保険
貯蓄だけを考えれば、他にも財形貯蓄制度の一般財形貯蓄や月払いの個人年金保険などもここに加えることができるでしょう。
ただその場合、次にお話する運用のことを考えると、財形貯蓄制度の一般財形貯蓄や月払いの個人年金保険の現状の利回りでは不可能と言わざるを得ませんので、この点は念頭に置いておいてください。
【老後破産対策】老後資金準備のための運用方法
まず、残念ながら「こうすれば目標とする運用利回りを達成することができる」という確実な方法は存在しません。
これは、当たり前と思われる方も多いでしょうが、運用するということは元本が保証されている現預金以外の金融商品や不動産等を保有することですから、絶対に〜という話はすべて嘘が入り混じっていると考えていただいて差し支えないでしょう。
ここは重要な点ですので必ず押さえておいてください。
これを踏まえた上で、もう一つ大事なポイントがあります。
それは「目標とする運用利回りを毎年達成し続けることはできない」ということです。
元本保証ではない=元本が変動する、ということに他なりませんから、元本額が変動する中で、目標とする利回り、今回の場合では年6%を上回る成果を出せる年もあれば、その一方で下回る、それどころか含みでの損失を抱えてしまう年もあることでしょう。
要は「結果的に目標とする運用利回りが年平均で達成できれば良い割り切ることが肝腎」ということです。
運用に確実性を持たせようと思っても、そもそも市場(しじょう)というものは我々の思い通りになることはありませんので。
仮にこの確実性のない、つまり不確実である運用をどうしても行ないたくないという方は、ご自身で定めた老後資金準備のゴールに基づいて、一般財形貯蓄や月払いの個人年金保険の月々ないしは年間の貯蓄額を高めに設定して積み立てていくと良いでしょう。かなりきついとは思いますが・・・
それでは少し具体的に「年平均6%の運用利回りを達成する運用方法」について考えていきましょう。
まずどの資産で運用すべきか、つまり資産配分についてです。
以下の表をご覧ください。
主要9資産 過去リターン(更新日 : 2015年6月)
- 主要資産の直近月までの過去実績リターン(円ベース)です。
資産名 | 年率平均リターン(%) | |||
---|---|---|---|---|
1年 | 5年 | 10年 | 20年 | |
現金 | + 0.1 | + 0.1 | + 0.2 | + 0.2 |
日本株式 | + 31.5 | + 16.6 | + 5.2 | + 3 |
外国株式 | + 22.5 | + 21.9 | + 8.3 | + 10.3 |
日本債券 | + 2 | + 1.9 | + 1.8 | + 2.3 |
外国債券 | + 12.4 | + 10.1 | + 4.9 | + 7.5 |
日本不動産 | + 16.5 | + 20.8 | + 5.8 | |
外国不動産 | + 22.7 | + 21.6 | + 7 | + 12.3 |
コモディティ | -23.6 | + 2.1 | -5.3 | + 3.8 |
円(対米ドル) | + 20.9 | + 6.7 | + 1 | + 1.9 |
http://myindex.jp/assets_i.phpより引用
上表はあくまでも過去の実績ですから、将来の実績を保証するものではありません。
ですが、将来のことは誰一人としてわからないわけですから、過去の実績から類推して資産配分を決めることになります。
この場合ですと、目標の運用利回りである年平均6%を表にある最長年数である20年間の年平均で達成しているのは、外国不動産(+12.3%)・外国株式(+10.3%)・外国債券(+7.5%)となります。
またこれらの次点としてはコモディティ(+3.8%)・日本株式(+3%)・日本債券(+2.3%)といったところでしょうか。
これら6つの資産のいくつかあるいはすべてを組み合わせて資産配分を決めていくとします。
その時に上表で見てきたリターンと合わせて重要になってくるのがリスクです。
これも過去20年間の実績で見てみると以下の通りになります。
外国不動産 リターン:+12.3%/リスク:21.0%
外国株式 リターン:+10.3%/リスク:19.2%
外国債券 リターン:+ 7.5%/リスク:10.9%
コモディティ リターン:+ 3.8%/リスク:24.5%
日本株式 リターン:+ 3.0%/リスク:17.9%
日本債券 リターン:+ 2.3%/リスク: 2.5%
出典:http://myindex.jp/assets_i.php
ここでいうリスクとは、統計学上の「標準偏差」のことで、リターンの変動幅(ブレ)のことをいいます。
どういうことかといいますと、日本株式の場合、上記の通りリターンが+3.0%、リスクが17.9%ですから、+3.0%±17.9%で、-14.9%〜+20.9%が想定しうる(損失も含めた)リターンの範囲となるということです。
このリターンの範囲を上記6つの資産で表すと以下の通りになります。
外国不動産 -8.7%〜+33.3%
外国株式 -8.9%〜+29.5%
外国債券 -3.4%〜+18.4%
コモディティ -20.7%〜+28.3%
日本株式 -14.9%〜+20.9%
日本債券 -0.2%〜+4.8%
上記をご覧いただいて6つの資産の中から一つだけに絞らなければならないとするとみなさんはどれを選びますか?
もし極力リスクの小さい安定的な運用で目標の年6%を達成しようと考えるのであれば「外国債券」を選択するのが最上ということになります。
この場合、次点では「外国不動産」ということになるでしょう。
リスクを最小限に抑えたいのであれば「日本債券」ですが、リターン幅の上限で+4.8%ですのでこれでは目標達成には心許ないといえます。
またコモディティと日本株式はリターン幅の上限の割に下限のマイナスが大きいのでリターンに対してリスクが過大といえますね。
さて、ここからさらに突っ込んでみていくと、6つの資産それぞれの価格の過去推移からどの程度相関(そうかん)するか、つまり一方が上昇している時にもう一方が同じように上昇するのかあるいは下落するのかの度合いを求めた上で、具体的にどの資産に何割入れるかという段階に入ります。
その時にはここまでお話してきた過去の推移などの数値上の定量的な判断だけではなく、現在の国内外の経済や政治の情勢を踏まえた上での定性的な判断を盛り込んでいくのが通常です。
ただここを詳しくお話すると定量的な部分については高等数学を使わざるを得ず、また定性的な部分については現状の世界経済や日本経済を政治的情勢を交えてお話しなければならないので、今回はこのあたりで止めさせていただきます。
ここではだいぶ突っ込んだところまでご説明しましたが、これはあくまでも一例として捉えていただきたい旨を再度申し上げておきます。
これを参考にしつつご自身やご家族のための老後資金の準備はいつまでにどのくらいの金額が必要なのかをしっかりと定めた上で、月々や年間の貯蓄額、また必要とする運用利回りとそのための運用方法の検討と実行をしていくことが大切です。
増加する高齢者による犯罪 その原因とは?
65歳以上の高齢者の犯罪件数は直近(平成25年)、20年前の平成6年と比較して約4倍と急増しています。
これを表したのが以下のグラフです。
それでは65歳以上の高齢者が引き起こす犯罪とはどのようなものでしょうか?
これについては以下のグラフをご覧ください。
上図のように65歳以上の高齢者による犯罪は全体の7割超(73.6%)が「窃盗」、そのうちの約9割が「万引き」です。
なぜこのような事態が起こっているのでしょうか?その原因とは何なのでしょうか?
これについては少し古いですが、法務省が平成19年に『高齢犯罪者の実態と意識に関する研究―高齢受刑者及び高齢保護観察対象者の分析―』を公表し、この中で65歳以上の高齢者による犯罪の原因についても言及しています。
ここで言及されている65歳以上の高齢者による犯罪の原因とは、高齢者が社会生活を送る中での複合的要因によるものです。
ただその複合的要因の中で大きなウェイトを占めているのは「経済的困窮」と「社会的孤立」にあります。
前者の「経済的困窮」については前回までにお話してきた”老後破産”の項にその説明は譲るとして、後者の「社会的孤立」とは配偶者に先立たれるなどして一人暮らしとなった高齢者が社会から隔絶された生活を送らざるを得ない状態のことです。
増加する高齢者による犯罪の原因から見える「豊かな老後の生活」とは?
「豊かな老後の生活」というとかなり曖昧な表現で、「豊かな老後の生活といっても個人的なもので人それぞれ違うのでは?」と思われた方も少なくないのではないでしょうか?
たしかにそれはその通りで、個人的なものと言わざるを得ないのが大前提といえるでしょう。
ですから、どうしても最大公約数的な「豊かな老後の生活」をお話せざるを得ないのですが、これを一言でいってしまうと以下の通りになります。
「経済的に安定していて、社会と関わりのある生活」
これは、先ほどまでデータで見てきた65歳以上の高齢者による犯罪の原因となっている「経済的困窮」と「社会的孤立」とは正反対となるように書き出したものです。
こう一口にいってしまうと非常にシンプルなものですが、前回までにお話してきた”老後犯罪”を防止するための「老後資金準備」についてをお読みいただいた方は既にご理解いただいているかと思います。
そう、”言うは易く行なうは難し”で、実践するのは容易(たやす)いものではありません。
「経済的困窮」を避けるための「老後資金準備」という金銭の備えも簡単なものではありませんし、「社界的孤立」を防ぐために定年を迎えて高齢者となっても社会にコミットできるようにしておくというのも容易ではありません。
ただ後者についても前者と同様に現役世代のうちから意識的に備えておけば方法はいくらでも考え得ると思います。
たとえば、定年退職後も働けるように仕事を探しておくことや一生涯の趣味やボランティア活動などのライフワークを見つけておくこと、またこれらを通じた家族とは別の仲間をつくっておくことなどです。
ここまでお話してきた中で大事なポイントは「経済的な安定だけでは豊かな老後生活とはいえない。一生涯社会と関わりのある生活を送れるようにしておくことも大切。”経済的な安定”と”一生涯社会と関わりのある生活”の両者を満たすためには現役世代と呼ばれる今のうちから備えておく必要がある」ということです。
「若いうちから老後のことなんて・・・」と切り捨ててしまわずに、たまに少しの時間で構いませんので、ご自身やご家族の「豊かな老後の生活」について思いを巡らせてみてはいかがでしょうか?