「デフレ脱却」とは2012年末の安倍政権発足以降、アベノミクスが提唱されるようになってからよく聞かれるようになった言葉です。そして政府や日銀はその言葉通りデフレからインフレへと転換しようと動きを強めています。そこで今回はインフレ対策の必要性を説く意味を込めて、デフレやインフレが個人資産に与える影響についてお話していきます。
※ インフレとデフレの意味については今さら聞けない物価、需要と供給、インフレとデフレの意味を参照のこと。
図でわかりやすく解説!デフレからインフレへ変わる意味
現状はまだ「デフレ脱却」しきれていない。しかし今後は・・・
まずは現状の物価がどのように推移しているかについて説明していきます。
アベノミクス(※1)の下で日銀(※2)は物価安定目標を年2%においています。
※1 今さら聞けない!?アベノミクスとは?〜成功か失敗かを語るその前に〜を参照のこと。
※2 お金の流れを読む!〜金融の意味、金融機関の種類と役割〜を参照のこと。
ここで物価安定目標の年2%を達成しているか否かをどう判断しているのかというと、日銀は消費者物価指数(総合、CPI)(※3)の対前年比の結果に基づいています(2016年5月末現在)。
※3 今さら聞けない物価、需要と供給、インフレとデフレの意味を参照のこと。
ただし、物価の中でも天候に左右されて変動が大きい生鮮食品を除いた消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、コアCPI)や米国をはじめとした諸外国で重視されている消費者物価指数(食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合、コアコアCPI)も参考にしています。
それではこれまで消費者物価指数はどのように推移しているのでしょうか?
以下の図をご覧ください。
消費者物価指数の推移
注:総務省統計局発表の「消費者物価指数年報 平成27年」を基に著者作成。
上図は2003〜2015年の13年間、消費者物価指数の総合(以下、CPI)・生鮮食品を除く総合(以下、コアCPI)・食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合(以下、コアコアCPI)の対前年比の推移を表したものです。
一目見てお分かりいただけるように、アベノミクスが開始され日銀が黒田総裁の下で新体制が発足した2013年以降、2014年にはコア対前年比でCPIとコアCPIが年2.6%と物価安定目標を上回り、コアコアCPIも年1.8%と物価安定目標に近い水準まで上昇しています。
しかし、2014年4月からの消費税率引き上げ(5%→8%)による消費の落ち込み等の影響を受けて、2015年にはCPIが年0.8%、コアCPIが年0.5%、コアコアCPIが年1%と再度下落に転じてしまいました。
とはいえ、アベノミクス開始前に見られた対前年比でのマイナスはなくなり、デフレから徐々にインフレに転換する兆しは見えてきているといって良いでしょう。
また、2016年に入り、日銀のマイナス金利政策(※4)導入やデフレに逆戻りするおそれとなる消費税率引き上げ(8%→10%)延期、さらに大規模な経済政策(報道ベースでは5〜10兆円規模)の可能性が示唆されている(2016年6月12日現在)こと等から、少なくとも政府や日銀がデフレからインフレへあらゆる手を尽くして転換しようという姿勢が見えていることは押さえておく必要があります。
※4 資産運用前に初心者が押さえておきたいマイナス金利の基礎知識を参照のこと。
図でわかりやすく解説!デフレからインフレへ変わる意味
インフレ対策としての個人の資産運用の必要性について考える
それでは、ここからはデフレからインフレへ変わっていく前提で、インフレ対策としての個人の資産運用の必要性について考えていきましょう。
まずは、これまで物価上昇率が年-1〜0%であったいわゆるデフレ下での推移について、図を用いて見ていきます。
以下の図をご覧ください。
物価上昇率年-1%の場合
注:著者の試算により作成。
ここでは期間を40年間として、左軸(%)に「物価上昇率(年-1%、累積)」をおいて線グラフを、右軸(万円)に「X年後の現在価値1000万円の金額」をおいて棒グラフを描いています。
この右軸の「X年後の現在価値1000万円の金額」とは、現在1000万円で購入できる財・サービスがX年後にはいくらで購入できるかという意味です。
物価上昇率が-1%の場合、40年後、「物価上昇率(年-1%、累積)」は約-49%、「X年後の現在価値1000万円の金額」は約510万円となります。
つまり、この場合、現在1000万円で購入できる財・サービスが40年後には約半分の金額で購入できるということです。
これは裏を返せば、1000万円をそのまま保有し続ければ、40年後には現在の倍近くの財・サービスを購入できてしまうということでもあります。
物価上昇率年0%の場合
注:著者の試算により作成。
これは最も単純明快です。
物価上昇率が0%の場合、40年後、「物価上昇率(年0%、累積)」は0%、「X年後の現在価値1000万円の金額」は1000万円のままです。
これは期間が何年でも変わりません。
つまり、この場合、現在1000万円で購入できる財・サービスは何年後でも同じ1000万円で購入できるということです。
ここまででお分かりいただけたかと思いますが、物価上昇率-1〜0%というデフレ下では、現金の価値が上昇する、あるいは変わらないわけですから、既に十分な資産を保有している、あるいはその見込みがあれば、極端にいえばリスク(※5)をとって資産運用する必要はないといえます。
※5 投資のリスクとリターンについて考えるを参照のこと。
それでは物価上昇率がプラスの場合はどうでしょうか?
ここからは日銀の物価安定目標年2%を中央値として±1%の年1〜3%の場合をそれぞれ見ていきましょう。
物価上昇率年+1%の場合
注:著者の試算により作成。
物価上昇率が+1%の場合、40年後、「物価上昇率(年1%、累積)」は約+49%、「X年後の現在価値1000万円の金額」は約1489万円です。
つまり、この場合、現在1000万円で購入できる財・サービスが40年後には約1.5倍の金額でなければ購入できないということです。
これは裏を返せば、1000万円をそのまま保有し続けても、40年後には現在の2/3近くの財・サービスしか購入できないということでもあります。
物価上昇率年+2%の場合
注:著者の試算により作成。
物価上昇率が+2%の場合、40年後、「物価上昇率(年2%、累積)」は約+121%、「X年後の現在価値1000万円の金額」は約2208万円です。
つまり、この場合、現在1000万円で購入できる財・サービスが40年後には2倍超の金額でなければ購入できないということです。
これは裏を返せば、1000万円をそのまま保有し続けても、40年後には現在の半分未満の財・サービスしか購入できないということでもあります。
物価上昇率年+3%の場合
注:著者の試算により作成。
物価上昇率が+3%の場合、40年後、「物価上昇率(年3%、累積)」は約+226%、「X年後の現在価値1000万円の金額」は約3262万円です。
つまり、この場合、現在1000万円で購入できる財・サービスが40年後には3倍超の金額でなければ購入できないということです。
これは裏を返せば、1000万円をそのまま保有し続けても、40年後には現在の1/3未満の財・サービスしか購入できないということでもあります。
このように、物価上昇率がプラス、つまりインフレになると現金の価値はその分目減りすることになりますので、たとえ既に十分な資産を保有している、あるいはその見込みがあったとしても、リスクをとってインフレ対策のための資産運用をする必要性が高いといえます。
最後に、ご参考までにここまで物価上昇率ごとに見てきましたが、ここでは「物価上昇率(年-1〜3%、累積)」と「X年後の現在価値1000万円の金額」の2つの図にまとめ直した図を示しておきます。
物価上昇率(年-1〜3%、累積)
注:著者の試算により作成。
X年後の現在価値1000万円の金額
注:著者の試算により作成。
<こちらもおすすめ!>