発足当時から国家ではない未来の形として注目を集めてきたEU(欧州連合)。そもそもEUとは一体どのようなものなのでしょうか?まずはEUの成り立ちから現在に至るまでの歴史を簡単に振り返っていくことでざっくりと全体像を掴んでおきましょう。現実には複雑な経過を辿っていますができるだけ分かりやすくお伝えします。
前の記事:【予告】特集:英国民投票はEU崩壊への道筋を示すのか?
- 1 EU(欧州連合)とは
- 2 EU(欧州連合)の歴史(年表:1952〜2016年)
- 2.1 1952年 ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)設立
- 2.2 1958年 EEC(欧州経済共同体)、EURATOM(欧州原子力共同体)設立
- 2.3 1967年 EC(欧州共同体)誕生
- 2.4 1968年 関税同盟完成
- 2.5 1973年 第1次拡大
- 2.6 1979年 EMS(欧州通貨制度)導入
- 2.7 1981年 第2次拡大
- 2.8 1986年 第3次拡大
- 2.9 1989年 ベルリンの壁崩壊
- 2.10 1992年 イギリスがERM(欧州為替相場メカニズム)から脱退
- 2.11 1993年 EU(欧州連合)発足
- 2.12 1995年 第4次拡大
- 2.13 1999年 欧州単一通貨ユーロ導入、アムステルダム条約発効
- 2.14 2002年 ユーロ紙幣・硬貨の流通開始
- 2.15 2004年・2007年 第5次拡大
- 2.16 2009年 リスボン条約発効
- 2.17 2012年 EUがノーベル平和賞受賞
- 2.18 2013年 第6次拡大
- 2.19 2016年 イギリスがEU離脱の是非を問う国民投票
EU(欧州連合)とは
EUとは”European Union”の略で、日本語では「欧州連合」と訳されています。
マーストリヒト条約(1992年調印、1993年発効)により創設された国際機構で、独特な経済および政治的な協力関係を持つ民主主義国家の集まりです。
EUに加盟している国は各々が主権国家ですが、その主権の一部をEUに譲るという仕組みに基づいた共同体を作っています。
これは世界的に見ても他に類のないものです。
EUの加盟国は創設時12ヵ国でしたが、その後増加し、現在(2016年6月末)28ヵ国で構成されています。
EU加盟国一覧(2016年6月末現在)
EUの総人口は2015年現在で5億820万人と日本の約4倍、総面積は429万㎢と日本の約11倍にまで及んでいます。
EUの本部はベルギーの首都ブリュッセルに置かれていますが、ここを主たる拠点としてEUの運営や法律制定のために様々な機関が設けられています。
主な機関は以下のとおりです。
EUの主な機関
上図左から簡単に説明していきます。
欧州議会は、5年ごとの直接選挙で選出された議員で構成されており、特定分野におけるおける理事会との共同決定権、EU予算の承認権、新任欧州委員の承認権等を有しています。
欧州理事会は、各EU加盟国の首脳や欧州理事会議長、欧州委員会委員長で構成されており、政治レベルの最高協議機関です。
EU(欧州連合)理事会は、各EU加盟国の閣僚級代表で構成されており、EUの主たる決定機関となっています。
欧州委員会は、閣僚に相当する各EU加盟国から1名ずつ任命された欧州委員で構成されており、EUの執行機関としての役割を担っています。
EU(欧州連合)の歴史(年表:1952〜2016年)
ここからはEUの成り立ちから現在までの歴史を見ていきましょう。
冒頭でもお伝えしたとおり、EUの歴史は非常に複雑な経過を辿っています。
ただ、ここでは学究的にではなく、あくまでも大掴みに歴史の流れを知ることが目的ですので、重要なポイントのみに絞って細部は省略してお伝えしていきます。
まず、第一次世界大戦や第二次世界大戦をはじめとして欧州は何百年にもわたって戦争を繰り返してきました。
第二次世界大戦後、これに対する危機感が欧州全体に高まりとともに、欧州の平和を求める声が大きくなっていきます。
そこで、1950年5月9日、当時の仏外相であったロベール・シューマンは、フランスと西ドイツの石炭・鉄鋼産業を共同管理することをまとめた声明(シューマン宣言)を発表します。
この声明でシューマンは超国家的な欧州の機構の創設を構想するとともに、その第一歩として当時、軍事力の基礎となっていた石炭・鉄鋼という産業部門の共同管理を提唱しました。
これによって設立されたのが、のちにEUの基礎となるECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)です。
1952年 ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)設立
ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)は上図の6ヵ国が加盟し開始されました。
これら6ヵ国を原加盟国として、1958年にはさらにEEC(欧州経済共同体)、EURATOM(欧州原子力共同体)の2つの共同体が設立されます。
1958年 EEC(欧州経済共同体)、EURATOM(欧州原子力共同体)設立
そして、ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)、EEC(欧州経済共同体)、EURATOM(欧州原子力共同体)の3つの主要機関が統合され、EC(欧州共同体)が誕生します。
1967年 EC(欧州共同体)誕生
このEC(欧州共同体)はのちにEU発足後の3つの柱のうちの1つになります。
1968年 関税同盟完成
関税同盟とは、密接な関係にある複数の国家が、相互間の関税を撤廃する一方で、その他の国に対しては同一の関税を適用するという同盟のことです。
1968年7月1日、関税同盟が完成し、ECの欧州域内加盟国間の関税が撤廃されました。
1973年 第1次拡大
デンマーク、アイルランド、イギリスの3ヵ国がECに加盟し、加盟国が9ヵ国に拡大します。
1979年 EMS(欧州通貨制度)導入
イギリスを除くEC加盟国間でEMS(欧州通貨制度)が導入されました。
このEMS(欧州通貨制度)は、ユーロの前身となるECU(エキュー、欧州通貨単位)、ECUを中心として定めた2通貨間の為替レートの上限と下限の範囲を外れた場合に各国中央銀行に無制限の介入義務を課すERM(欧州為替相場メカニズム)、ECB(欧州中央銀行)の前身となるEMCF(欧州通貨協力基金)から構成されています。
1981年 第2次拡大
ギリシャがECに加盟し、加盟国が10ヵ国に拡大します。
1986年 第3次拡大
ポルトガル、スペインの2ヵ国がECに加盟し、加盟国が12ヵ国に拡大します。
1989年 ベルリンの壁崩壊
ベルリンの壁が崩壊し、東西に分裂していたドイツが統一されました。
これを皮切りに冷戦は終結に向かいます。
1992年 イギリスがERM(欧州為替相場メカニズム)から脱退
イギリスは1990年にERM(欧州為替相場メカニズム)に加入していましたが、ポンド危機をきっかけにわずか2年で脱退します。
1993年 EU(欧州連合)発足
1992年に調印されていたマーストリヒト条約(欧州連合条約)の発効により、1993年、EC加盟の12ヵ国でEU(欧州連合)が発足します。
マーストリヒト条約(欧州連合条約)では、EUはECを基盤とした第1の柱:単一市場、経済・通貨統合、これに加えて第2の柱:共通外交・安全保障政策、第3の柱:司法・内務協力の3つの柱構造とする旨が謳われています。
1995年 第4次拡大
オーストリア、フィンランド、スウェーデンの3ヵ国がEUに加盟し、加盟国が15ヵ国に拡大します。
1999年 欧州単一通貨ユーロ導入、アムステルダム条約発効
EU加盟15ヵ国中11ヵ国で欧州単一通貨ユーロが導入されます。
マーストリヒト条約を改正したアムステルダム条約が発効されます。
アムステルダム条約では、ビザ、庇護、移民、その他人の移動に関する政策を第3の柱から第1の柱に移行することで、第3の柱を従来の司法・内務協力から警察・刑事司法協力に集約されることになりました。
また、第1の柱にシェンゲン協定が組み入れられています。
シェンゲン協定とは欧州の国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定のことです。
2002年 ユーロ紙幣・硬貨の流通開始
EU加盟15ヵ国中イギリス、スウェーデン、デンマークを除く12ヵ国でユーロが導入され、ユーロ紙幣・硬貨の流通が開始します。
2004年・2007年 第5次拡大
2004年にキプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロバキア、スロベニアの10ヵ国が一挙にEUに加盟、また2007年にブルガリア、ルーマニアの2ヵ国を加え、加盟国が27ヵ国に拡大します。
2009年 リスボン条約発効
2007年に調印されていたリスボン条約が発効されます。
リスボン条約では、EUの新しい基本条約として、上図にあるように4つのポイントが示されています。
2012年 EUがノーベル平和賞受賞
EUが前身の時代を含めて60年以上にわたって「平和と和解、民主主義と人権の向上に貢献してきた」ことを理由としてノーベル平和賞を受賞します。
2013年 第6次拡大
クロアチアがEUに加盟し、加盟国が28ヵ国に拡大します。
2016年 イギリスがEU離脱の是非を問う国民投票
この国民投票によりイギリスはEUから離脱することが決定しました。
ここまで歴史を振り返って見てきたようにEUの加盟国が離脱するのは初めてのことです。
これが英国やEUのみならず、世界全体にどのような影響を及ぼすことになるのでしょうか。
次の記事:【第2回】GDPは?成長率は?EU経済の過去と現在
*目次
【第1回】崩れ去る国家ではない未来の形〜EU(欧州連合)とは何か?
【第4回】日本への影響は?イギリスのEU離脱のメリットとデメリット
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