「資産形成や資産運用は不要」といわれることがあります。曰く「まず現在が大事。先のことを考えても仕方ない」とのことです。これはとくに初心者の方が惑わされやすい言葉ですが、少なくとも日本の年金制度の現状などから老後の生活を見渡すと大半の方にとっておすすめできる考え方ではありません。詳しく見ていきましょう。
日本人は資産形成や資産運用に無関心?
まずは以下の図をご覧ください。
家計の金融資産構成(日本・米国・ユーロエリア)
日本銀行調査統計局「資金循環の日米欧比較」(2016年12月22日)を基に作成
注:日本は2016年末、ユーロエリアは6月末現在
上図は日米欧の家計金融資産の内訳を比較したものです。
これを見ると日本は欧米と比べて現預金の割合が非常に大きい一方、株式や債券、投資信託の割合が極端に小さいことが一目瞭然ですね。
これの主な原因の一つとして日本は家計金融資産の約7割を60代以上の高齢者層が占めているということが挙げられます。
60代以上の高齢者層の方たちは資産形成が既に十分できている世帯が少なくないのに加え、年齢が高くなるにつれて保守的になりやすいという性向も相俟って、株式や債券、投資信託でリスクを負わずに現預金で保有する傾向があるといえるでしょう。
それでは日本国内で相対的に金融資産を保有していない20〜40代の若年層は株式や債券、投資信託を保有、あるいは保有したいと考えて資産形成や資産運用のために積極的な投資姿勢を持っているのでしょうか?
どうやらそれは違うようです。
若年層(20〜40代)の投資への取り組み状況
(株)野村総合研究所「若年層を中心とした個人による投資の現状とNISAの利用促進に向けた課題に関する調査」報告書(2015年10月1日)を基に作成
上図は20〜40代の若年層の方たちに対して、まず投資経験があるかないか、次に投資経験がない場合、投資に関心があるかないかを聞き取り調査した結果を表したものです。
これを見ると投資経験者は全体の27%と3割未満に止まっています。
また、投資未経験者のうち投資に関心があるのは全体の21.3%です。
その一方で投資未経験者のうち投資に無関心なのは全体の51.7%と過半数を超えています。
このように20〜40代の若年層の大半は資産形成や資産運用に対する意識が低いと言わざるを得ないのが現状です。
もちろん各々の方に様々な事情があるのでしょうが・・・。
「資産形成しなくても老後は年金があるから大丈夫」・・・ではない!
さて、ここからが問題です。
資産形成や資産運用は本当に不要なのでしょうか?
たとえば20〜40代の若年層の方たちにとって「資産形成なんてしなくても老後は年金があるから十分何とかなる。大丈夫だよ」と言い切れるでしょうか?
大丈夫です・・・と言いたいのはやまやまですが、残念ながら大半の方にとっては大丈夫ではありません。
現実を直視するのは簡単ではありませんが、ここからは私たちを取り巻く日本の現状についてお伝えしていきます。
人生90年時代=「長生きリスク」
厚生労働省「平成28年簡易生命表」(2016年7月27日)を基に作成
上図は直近の日本の平均寿命と80歳時点での平均余命を男女別に表したものです。
平均寿命は男性80.79歳、女性87.05歳。
一方で80歳時点での平均余命は男性8.89年(88.89歳)、女性11.79年(91.79歳)。
平均寿命は0歳時点での平均余命と言い換えることができるもので、少数ではありますが乳幼児や若年で亡くなられる方も含まれていることを考慮すると、上図の右側にあるように現在の日本は人生90年時代に差し掛かっているといえます。
もちろん長寿は素晴らしいことだと思います。
しかし、家計の面から見ると、長寿であることそのものが大きなリスクをはらんでいることを理解しておく必要があります。
これを総じて「長生きリスク」と呼びます。
それではこの「長生きリスク」とはどのようなものでしょうか?
ここに60歳の夫婦2人で生活している方がいるとしましょう。
夫が定年(60歳)まで会社員、妻が専業主婦。
2人とも90歳まで存命だった場合の現行制度に基づいた公的年金の受け取りを試算してみると以下の図のようになります。
将来の公的年金の試算
厚生労働省「平成26年度厚生年金保険・国民年金保険事業統計」を基に作成
上図にあるように現行制度の下では年金受給開始年齢は65歳ですので、夫婦2人が90歳になるまでの26年間で総額6552万円受け取ることになります。
ここまでは老後の収入のお話です。
それでは老後の支出についてはどうでしょうか?
ここでは現在(60歳)から90歳までの31年間、直近の聞き取り調査によって判明した老後の最低日常生活費(平均)22万円/月、趣味等を充実させたゆとりある老後生活費(平均)35万円/月でそれぞれ試算してみます。
公的年金だけでゆとりある老後生活を送れるか?
(公財)生活保険文化センター「平成28年度生活保障に関する調査<<速報版>>」(2016年9月)を基に作成
上図のように老後の最低日常生活費の総額は8184万円、ゆとりある老後生活費の総額は1億3020万円です。
これらと先ほどの公的年金の受け取り総額6552万円の差額を計算すると、それぞれ1632万円の不足、6468万円の不足となります。
このように現行制度の下で公的年金だけで老後の生活資金を賄おうと思っても、ゆとりある老後生活どころか、多くの方が考える老後の最低限の日常生活すら送ることが困難になるかもしれません。
ちなみにこの例の場合、夫が会社員として定年(60歳)まで勤め上げた前提でのお話ですから、会社から支給される退職金の額によっては、退職金+公的年金で老後の最低日常生活費は賄える可能性はあります。
ただ、それでもゆとりある老後生活費に達することはほぼ不可能でしょう。
また、20〜40代の若年層の方たちにとって追い討ちをかける形になってしまいますが、ここではあくまでも現行制度の下で現在受け取れる公的年金を試算したものです。
現在から将来にわたって日本は少子高齢化が進行していくと想定されています。
現役世代の保険料負担で高齢者世代の年金受け取りを支える構図(一部は積立金)が公的年金の現行制度ですから、今後受給開始年齢が引き上げられたり、月々の受け取り額が減額されたりすることで、受け取り総額が大きく減ってしまうかもしれません。
この点も考慮すると、とくに20〜40代の若年層の方たちはここまでお話してきた「長生きリスク」に備えるために、現役世代のうちにこの不足分をしっかりと埋め合わせておくことができるかどうかがゆとりある老後生活のための鍵を握っているといえます。
つまり資産形成や資産運用は必要不可欠ということです。
資産運用しないことをおすすめできないもう一つの重大な理由とは?
ここではもう一つ、今度は20代以上のすべての世代の方たちに資産形成や資産運用が必要不可欠だというお話をします。
それは今後、「インフレリスク」に対応しなければならない可能性が高いからです。
インフレ(※)とは物価が持続的に上がっていくこと。
この反対に物価が持続的に下がっていくことをデフレ(※)といいます。
※ インフレとデフレについて詳しくは図でわかりやすく解説!デフレからインフレへ変わる意味を併せて参照のこと。
ここではあまり深入りすることは避けますが、日本は現在、政府や日銀がデフレ脱却に向けた経済政策を実施しています。
少し具体的にいうと、政府や日銀はインフレ率前年比2%を目標として政策運営しているところです。
つまり、日本の経済環境はデフレからインフレへと移り変わろうとしている真っ最中にあるといえます。
それではデフレからインフレに変わる意味をここでは簡単に解説していきましょう。
デフレからインフレの時代へ
上図は各インフレ率(年、%)に応じて現在の100万円が30年後のいくらと等しい価値を持つかを表したものです。
インフレ率が年0%であれば、現在の100万円も30年後の100万円も同じ価値を持ちます。
要するに現在100万円で購入できる物やサービスは30年後も100万円で購入できるということです。
インフレ率年-1%だった場合、現在の100万円は30年後の65万円と等価です。
つまり現在100万円で購入できる物やサービスは30年後には65万円で購入できることになります。
この場合は現預金を持ち続けたほうが有利になることは容易にお分かりいただけるかと思います。
これがこれまでのデフレの時代です。
一方、これからインフレの時代となった場合はどうでしょうか?
インフレ率年1%の場合、現在の100万円は30年後の135万円と等価。
インフレ率年2%の場合、現在の100万円は30年後の181万円と等価。
インフレ率年3%の場合、現在の100万円は30年後の243万円と等価。
政府や日銀が目標とする年2%のインフレ率が達成され続けたとすると、現在100万円で購入できる物やサービスは30年後には181万円支払わなければ購入できません。
いわんやインフレ率年3%ともなれば、現在100万円で購入できる物やサービスは30年後には243万円と倍以上の金額を支払わなければ購入できません。
これが「インフレリスク」です。
ここまで説明すれば「インフレリスク」に対応するために資産形成や資産運用が必要不可欠とお話した意味合いがよくお分かりいただけるかと思います。
それでは先ほどの「長生きリスク」にこの「インフレリスク」を加えるとどのようになるか見ていきましょう。
「長生きリスク」と「インフレリスク」の二重苦
先ほどの老後の最低日常生活費とゆとりある老後生活費はインフレ率年0%で試算したものといえます。
これが上図でいうと青色の丸で囲った部分になります。
一方でインフレ率が年2%ずつ上昇していった場合が赤色の丸で囲った部分です。
この場合、老後の最低日常生活費の総額は1億1188万円、公的年金受け取り総額6522万円との差額を計算すると4636万円の不足が生じることになります。
ゆとりある老後生活費の総額は1億7799万円、公的年金受け取り総額との差額は1億1247万円の不足です。
それぞれインフレ率0%の場合の倍以上の不足額が生じることになります。
こういったシミュレーションを基に現実を直視することは大変苦しいことではありますが、ご自身やご家族の現在から将来に渡っての充実した生活を送る上でとても大切なことです。
ぜひ現実から目を逸らさず、まずは資産形成や資産運用の必要性を身にしみて感じるところから始めていただければと思います。
次の記事:初心者が資産運用を始める際に必要なたった一つのこと
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