「いつか公的年金は確実に破綻する」という年金崩壊のシナリオがあります。
はたしてこれは本当でしょうか?
また20〜50代の現役世代の方にとって、老後資金対策としての資産形成は必要でしょうか?
今後の公的年金制度を軸に、これらについて解説していきます。
「いつか公的年金は確実に破綻する」は嘘!それはなぜか?
現在の日本は長寿、高齢化社会となり人生90年時代とも呼ばれるようになりました。
その中で、長寿であることそのものが老後資金の不足を生じさせるおそれがあり、これを長生きリスクと言います。
そして年金はこの長生きリスクに備えるための保険です。
年金は「長生きリスクに備えるための保険」
厚生労働省「平成28年簡易生命表」(2016年7月27日)を基に作成
年金には国が運営している公的年金と、民間が運営している私的年金があります。
公的年金は20以上の全国民が加入する国民年金、民間企業で働く会社員を対象とした厚生年金、国家公務員や地方公務員、私立学校の教職員を対象とした共済年金の3種類です。
一方、私的年金には企業年金や確定拠出年金、個人年金などがあります。
そして年金の仕組みは大別すると、賦課方式と積立方式の2つです。
年金の仕組み〜賦課方式と積立方式
上図にあるように賦課方式とは、現役世代から集めた保険料を老後世代の年金給付に充てる方式のことで、公的年金の根幹を成す仕組みです。
一方、積立方式とは自分の納めた保険料を積立てておき、その積立金を運用し、将来年金として受け取る方式のことで、私的年金はこの仕組みを採用しています。
ちなみに公的年金は賦課方式が根幹を成す仕組みとしつつ、一部積立方式を採用しており、正確には修正賦課方式となっています。
「いつか公的年金は確実に破綻する」という、年金崩壊のシナリオが唱えられるのはこの賦課方式が関係しています。
つまり端的に言うと、現在から将来にわたって人口動態が少子高齢化していく中、現役世代から集めた保険料が減少し、それに伴って老後世代の年金給付も減少の一途を辿り破綻するという論法です。
ただ将来の人口動態は既に統計上、かなり正確な数字が出ています。
そして、その前提に基づいて全体として保険料=給付額となるように、保険数理※を用いて定期的に厳密な計算がなされています。
※保険数理とは保険会社が定める保険料、責任準備金、契約者配当など、保険業務についての数学的な計算や理論を指す。
ですから、適当な計算や制度設計上の改悪がなされない限りは、公的年金が破綻する恐れはないでしょう。
それでも老後資金対策としての資産形成が必要な理由
それでは、「いつか公的年金は確実に破綻する」という年金崩壊のシナリオが起こり難いのであれば、老後資金対策としての資産形成を、20〜50代の現役世代のうちに行う必要はないのでしょうか?
それは違うと考えています。
なぜならば、公的年金が将来破綻するまではいかなくても、今後の日本の人口動態から保険料負担に対する給付額の割合が低下し、公的年金だけでは老後資金を賄えない公算が大きいことも確かだからです。
先細りが懸念される公的年金
総務省「国勢調査」「人口推計」、社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(出生中位・死亡中位)」を基に作成
上図はあくまでもイメージですが、修正賦課方式である公的年金を支える構造として1965年時点では老後世代1人に対して現役世代9.1人と胴上げ型であったのが、2012年には老後世代1人に対して現役世代2.4人と騎馬戦型となり、2050年には老後世代1人に対して現役世代1.2人と肩車型と現役世代の負担割合は増加の一途を辿ります。
ここで一例を挙げてみましょう。
将来の公的年金の試算
厚生労働省「平成26年度厚生年金保険・国民年金保険事業統計」を基に作成
上図のように夫婦2人で65〜90歳の26年間、夫婦合わせて月額21万円の公的年金を受け取り続けるとすると総額は6552万円となります。
一方で、老後の最低日常生活費は月額22万円、ゆとりある老後生活費は月額35万円とされており、これを60〜90歳の31年間支出するとします。
公的年金だけでゆとりある老後生活を送れるか?
(公財)生活保険文化センター「平成28年度生活保障に関する調査<<速報版>>」(2016年9月)を基に作成
この場合は上図にあるように老後の最低日常生活費の総額は、8,184万円となり公的年金の受け取り総額との差額は1,632万円の不足、ゆとりある老後生活費の総額は1億3.020万円となり公的年金の受け取り総額との差額は6,468万円の不足となります。
このように場合によっては公的年金だけでは老後の最低日常生活費さえ賄うことができない恐れがあるわけです。
もちろんこれはあくまでも一例に過ぎませんが、老後の生活不安を今のうちに解消しておきたい20〜50代の現役世代の皆さんには、老後資金対策としての資産形成をできるだけ早期から始めることをおすすめします。