為替レートとは、2国間の通貨を交換するときに適用する比率のことで、基本的には需要と供給の関係でその比率が上下します。
ただ実際には貿易収支、金融政策、物価水準や国民の金融資産など複雑な要因が絡み合っているため、為替レートの見通しは専門家でさえも非常に困難でしょう。
そして、為替レートの決定に関しては、古くから多くの経済学者によって研究されており、現在も活用されている説も存在します。
そこで今回は、為替レートの決定理論として最も代表的な「購買力平価説」について、まとめてみました。
それではまいりましょう。
参考記事:為替の円高・円安とは? ~どちらが得かなど含め初心者向けにわかりやすく解説~
購買力平価説とは
購買力平価説とは、『為替レートは自国の通貨と相手国の通家の購買力(※)の比率によって決まる』とする為替レートの決定理論です。
※購買力とは、貨幣1単位で購買できる財やサービスの量のこと。パンが一つ100円とすると、1円で買えるパンは100分の1個。同じパンが1米ドル札で購入できるとすると、1米ドル札の価値は1円玉100個分の価値と等しい(1ドル100円)という考え方になります。
1921年にスウェーデンの経済学者カール・G・カッセル(1866-1945) が提唱したもので、英語では“Purchasing Power Parity”と表記することから、通称“PPP”と呼ばれています。
この購買力平価説には、絶対的購買力平価説と相対的購買力平価説の2種類があります。
絶対的購買力平価説について
絶対的購買力平価説とは、為替レートは2国間の通貨の購買力によって決定されるという説です。
例えば、世界中にチェーン店をもつ有名なハンバーガーショップがあるとします。
この店のハンバーガーは世界中のどのチェーン店でも、同じ品質のハンバーガーであれば、同じ価格で買えるはずです。
そこでハンバーガーが米国で1ドル、日本で100円で販売されたとすると、このときのドル円の為替レートは「1ドル=100円」が妥当な水準となります。
つまり、絶対的購買力平価説とは「自由な市場経済において、同一市場の同一時点における同一商品は、同一の価格である」という一物一価の法則を前提として、為替レートが決定づけられる、という理論です。
しかし、絶対的購買力平価説が成立するには、すべての財やサービスが自由に貿易されなければなりませんので、現実の世界では成り立たちづらい理論になります。
相対的購買力平価説について
そこで、『現実世界では一物一価の法則が成立しない』という考えから考案されたのが、相対的購買力平価説です。
相対的購買力平価説とは、為替レートは2国間の物価上昇率の差(=インフレ率の格差)で決定されるという説です。
具体的には、A国の物価上昇率がB国の物価上昇率よりも相対的に高い場合、A国の通貨価値は減価するため為替レートは下落するという考え方です。
これを計算式に表すと以下の通りです。
新為替レート=旧為替レート×{(100+A国の物価上昇率)÷(100+B国の物価上昇率)}
仮にA国を日本、B国を米国として、現在の為替レート(旧為替レート)が1ドル120円、日本の物価上昇率が30%、米国の物価上昇率が20%としてこの計算式に当てはめると、
120×{(100+30)÷(100+20)}で、新為替レートは、1ドル130円となります。
このように、日本の物価上昇率が米国よりも高い場合、ドルに対して円の価値が下がる、つまり円安ドル高になるということです。
ただし、相対的購買力平価説も、すべての財やサービスが同じ割合で変動することを前提としています。その他の諸事情は一切考慮されていないため、現実世界で完全に成り立つとは言い難いでしょう。
購買力平価説は意味がないの?
このように絶対的購買力平価説、相対的購買力平価説ともに、為替レートの決定理論としては、完全なものではありません。
購買力平価説の問題点としては、現実とは異なる一物一価を前提にしていることや、基準となる時点が明確ではないこと、各国独自の諸事情が考慮されていない点などです。
あわせて購買力平価説をもとに計算された「ビックマック指数」は、全世界のマクドナルドで販売されているビックマックの価格を比較することで、各国の経済力や為替レートの妥当性を判断するために用いられています。
ビックマックの価格には、原材料価格の他、製造コストや光熱費、人件費、物流コスト、サービス費用など幅広い要素が含まれています。
そのため、購買力平価を表示するものとして優れている反面、各国の諸事情である国内ファストフード店の価格競争や国から支給される補助金、各国で大きなばらつきのある消費税などは考慮されていません。
また、国家間の取引では購買力平価が現実に則していない値になるケースも多く、短期・中期の為替レートの動きと大きく乖離しているのが現実です。
「ビックマック指数」と同じく英国「エコノミスト」誌で算出されている「トールラテ指数(スターバックス)」の他、OECD(経済協力開発機構)でも多くの品目を使って購買力平価を算出していますが、算出された購買力平価はそれぞれ異なるので、厳密な指標としては機能していません。
とはいえ、現在でも購買力平価説が用いられる理由は、過去の為替レートの推移から長期的な為替の動きと連動しているためです。
そして長い目で見れば、為替レートは購買力平価に近いところへ落ち着く性質を持つ点も明らかになっています。実際の為替レートが購買力平価が示す為替レートから大きく離れたとしても、長期的には購買力平価に近づく形で調整されると予測できます。
したがって購買力平価説は、為替レートの決定理論としては完全ではないものの、
・長期的な為替レートの見通しを立てる指標の一つ
・各国の物価水準を感覚的に読み取る手段
として役立つ理論といえるでしょう。
まとめ
今回は、為替レートの決定理論として「購買力平価説」について紹介しました。
購買力平価説には、絶対的購買力平価説と相対的購買力平価説があり、短期・中期の為替レートの動きは購買力平価と乖離しているものの、10年20年といった長期的な為替レートの説明には一定の効果があります。
資産形成はあくまでも長期戦ですから、近視眼的になりすぎないためにも、しっかりとこの購買力平価説を理解いただければと思います。
そして最後になりますが今後、長期的な為替レートの動きを予測する際には購買力平価を参考に、円の価値がどのように変わるか判断材料にしてみてはいかがでしょうか。