トラブル事例を踏まえて考える!弁護士が話す相続問題と相続対策の基本とは?

トラブル事例を踏まえて考える!弁護士が話す相続問題と相続対策の基本とは?

皆さんは「相続」という言葉にどのようなイメージを思い浮かべますか?

「家族や自分が亡くなったときのことを考えるのは縁起が悪い」とか、「兄弟姉妹と遺産のことについて話し合わなきゃいけないのは面倒だし、人の嫌な部分が見えて苦痛だ」など、とかくマイナスな印象を持っている方も多いのではないでしょうか。

本記事は主に、「相続対策を始めたいと思っているけれど、マイナスイメージがまとわりついて第一歩を踏み出せない!」という方に向けたものです。疑問に思われがちな点を、事例を踏まえながら分かりやすく解説していきますので、この記事が相続対策を考え始める一つのきっかけとなれば幸いです。

参考記事:【意外と簡単】IFAが教える相続手続きに必要な7つの書類を徹底解説!

そもそも「相続対策」「相続問題」って何?

「相続対策」とは、一言でいえば「相続問題」を避けるための対策です。

「相続問題」とは、相続をめぐって家族間で争いが起きてしまったり、遺産を利用したくても必要な手続が完了せず利用ができなかったり、予想外の相続税がとられてしまったりなど、相続を発端とした様々なトラブルのことを言います。

相続問題の具体的な相談事例をいくつか紹介しましょう。

Case1. 祖父の土地を活用したいのに…(相談者Aさん)

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私の実家は酒屋を営んでおり、祖父が約60年前に取得した土地上に店舗を構えて商売を続けてきました。祖父や父(いずれも既に亡くなっている)からは、「家業と土地は長男が継ぐ」と言い伝えられてきたため、特に遺言は作られず、遺産分割協議も行っていませんでした。

この度、3代目の私の代でやむなく家業を廃業することとなり、代々伝わってきた土地上にはマンションを建てて有効活用したいと考え、建築資金の借入れのために銀行に相談に行きました。

しかし、銀行からは、「土地の登記名義が祖父のままとなっている。このままでは抵当権を設定できないので、融資することは難しい」と言われてしまいました。

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銀行から資金の融資を受けるためには,担保を提供する必要があります。相談者Aさんは,父親から相続した土地を担保に入れてマンションの建築資金を借り入れようと考えましたが,銀行が担保権(抵当権)の登記をするためには,融資を受ける予定の人(Aさん)がこの土地の所有者であることが登記上明らかになっていることが必要となります。

Aさんが土地所有権の登記をするためには,まず,Aさんが父親からこの土地を「単独で」相続したといえることが必要です。父親が遺言で「この土地をAに相続させる」と残しておいてくれればよかったのですが,それがない場合,父親の相続人全員で遺産分割協議を行い,Aさんがこの土地を相続することについての遺産分割協議書を作成しなければなりません。

さらにこの事例では,土地の現在の名義がAさんの祖父となっていますので,父親が祖父からこの土地を「単独で」相続したことも必要になってきます。祖父も遺言を残していないようですので,祖父の相続人(たとえば父親の兄弟姉妹など。兄弟姉妹が亡くなっている場合はその子など)の間でも遺産分割協議を行わなければなりません。

この事例のように、第1次相続(祖父の相続)について協議をせず放置している間に第2次相続(父親の相続)が発生してしまうケースのことを数次相続といいますが、放置期間が長くなればなるほど相続人の総数が増え、互いに面識がない人も出てきて、遺産分割協議を取りまとめることが困難になってきます。そうすると、いつまで経っても遺産を活用することができないというトラブルに巻き込まれてしまうのです。

Case2. 兄妹間の対立(相談者Bさん)

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先日、私の父が亡くなりました。相続人は、私、弟、妹の3人です。

相続財産は、実家の土地建物(5,000万円)と預金2口(500万円×2)で、これを誰がどのように相続するかについて議論となりました。私は、長年住み続けてきた実家の土地建物を自分で取得したいと考えているのですが、弟や妹はこれを売却して代金を等分すべきだと言っています。

何度も話し合ったのですが全くまとまらず、私が老後の父の世話を一人でしてきたこと、弟・妹はそれぞれ父から事業資金や結婚資金を譲り受けていることなど、主張したいことが山ほどあるのですが、全く聞き入れてくれません。しまいには3人とも感情的になって、話合いどころではなくなってしまいました。

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相続人間での遺産分割協議がまとまらないときは、家庭裁判所の調停や審判の手続を経ることになりますが、これらの手続を行うには膨大な時間を要し、解決まで2~3年かかる事案も少なくありません。そして何より、親族間で争うことは非常に心苦しいことであり、当事者の精神面に多大な負担をもたらします。

この事案でも、Bさんの父親は遺言を残していなかったようです。この場合、Bさんと弟・妹はそれぞれ3分の1ずつの法定相続分を有しており、裁判所はこの法定相続分を基準として調停・審判を進めます。そうすると、それぞれの取り分の額は2,000万円ずつということになりますが、Bさんが5,000万円の実家の土地建物を取得するとなると、3,000万円分の「貰いすぎ」になってしまいますので、弟と妹にそれぞれ1,500万円ずつの代償金を支払わなければなりません。この金銭的負担は極めて大きく、Bさんは残念ながら実家の土地建物を手放さなければなりませんでした。

他方、もし父親が「実家の土地建物をBに相続させる」という遺言を残しておいてくれれば、弟と妹は遺留分の主張ができるだけにとどまります。遺留分とは、遺言があったとしても最低限留保しておかなければならない取りのことであり,この事例では弟・妹それぞれ6分の1ずつ、金額的には1,000万円ずつです。Bさんは,弟と妹にそれぞれ預金500万円を取得させ、それ以外に500万円ずつ計1,000万円を支払うことによって、実家の土地建物を取得することができたのです。

相続対策の第一歩は「遺言」を作ることから!

相続対策の第一歩は「遺言」を作ることから!

このような相続問題を未然に防ぐための最大の相続対策が、「遺言」を作っておくことです。

遺言さえあれば、遺産分割協議を行わなくても遺産を決められた相続人に承継させることができるため、Case1のような面倒な事態を回避することができます。また遺言には、相続人の貢献度を考慮して遺産を適切に分配することができるというメリットもあるため、Case2のBさんのように、実家で生活の面倒を見てくれた子の頑張りに報いることができるのです。

相続対策は「分割」「節税」「納税」の3本柱が重要だと言われますが、この中で真っ先に取り組まなければいけないのが「分割」=誰に何を相続させるかという点です。この「分割」対策のキモが遺言なのですが、従来は作成するにあたって厳しい要件が課せられ、少しでも方式が間違っていると遺言全体が無効とされてしまうというリスクがあり、なかなか遺言を利用しづらいというのが現実でした。

それが民法の改正により,2019年1月からは自筆証書遺言の作成要件が一部緩和され、自分で遺言書を簡単に作成しやすくなるとともに、2020年7月からは自筆証書遺言保管制度が始まり、全国各地の法務局・地方法務局で遺言書を預かってもらうことができるようになりました。

従来は、遺言といえば「一生に一度書くかどうか」のイメージでしたが、これからは「相続問題を避けるためにとりあえず書いておく」というような軽い気持ちでどんどん作成してほしい(内容を変えたいと思ったら後で書き換えればいい)というのが、この度の民法改正に込められたメッセージなのです。

遺言は、遺された家族に「価値」を承継させる秘伝の書

遺言は、遺された家族に「価値」を承継させる秘伝の書

人の死について考えるのは確かにとても辛いことであり、相続や遺言に関する話題が忌み嫌われる理由の一端であるのは疑いないでしょう。そのようなマイナスな感情を抱いたときは、相続を「価値の継承」と考えてみてはいかがでしょうか。

人は、自身が生前に有していた「価値」を、次の世代に引き継いでいくことができます。ここでいう価値には、有形の財産だけでなく、知識、ノウハウ、伝統、他者との信頼関係などありとあらゆるものが含まれます。適切に引き継がれた価値は、継承者の手によってさらに大きく育てていくことができるのです。遺言は,遺された家族に対し,自身の一生涯で生み出された価値を継承させていくための手段なのです。「秘伝の書」や「最後のラブレター」と言ってもいいかもしれません。

まとめ

相続対策は「分割」「節税」「納税」の3本柱の中で真っ先に取り組むべきことが「分割」対策であり、そのための第一歩が遺言を作ることです。

相続や遺言には,法律的にもイメージ的にも,このようなプラスの側面があることをぜひ知っていただき,相続対策の第一歩を踏み出していただけたら幸いです。

■執筆者紹介

セブンライツ法律事務所
パートナー 藤木 友太(ふじき ゆうた)

弁護士
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®

明治大学法学部、同大学法科大学院を卒業後、2014年弁護士登録。2017年にセブンライツ法律事務所に参画。主な取扱分野は、企業のビジネスモデル構築・資金調達・労務・M&Aなどの法的支援、不動産関係法務、相続・事業承継法務。実家は三代続く日本茶卸売店。幼い頃から多くの地元企業に接し、様々な経営者の本音を聞く中で、円滑な相続・事業承継ができなかったために閉鎖する企業が増えつつある現状に直面する。弁護士として、また自身も家業の次期後継者として、日本のSuccession(承継)を法律面から支えることに使命感を燃やす。

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