生活の三大要素と言われる「衣・食・住」、「不動産」はその「住」に関わるものですが、細かいことまで把握されている方は少ないのではないかと思います。
そこで、「不動産」の基本的なことから、何回かに分けて説明していきたいと思います。
参考記事:不動産投資のメリットとデメリット(リスク)をわかりやすく解説
不動産とは何か?
「不動産」とは、民法第86条において、「土地及びその定着物は、不動産とする」と定義されており、同86条において、「不動産以外の物は、すべて動産とする。」とも定義されております。
ローランド的に説明すると、「不動産か、不動産以外か。」ということになりますが、民法上では、「不動産か、動産か。」となりますね。
つまり、不動産とは土地や、土地及びその定着物(建物)等の動かすことの出来ない財産です。一方、不動産以外の動かすことの出来る財産、現金・商品・家具などは動産とみなされます。
不動産の特徴
不動産には、「固定性(動かない)」「永続性(土地は消滅しない)」「不増性(土地・建物は増えたりしない)」「個別性(同じ不動産は2つとして存在しない)」という特徴があります。
特に、動産と違って一番特徴的なところは、2つとして同じ不動産は存在しないという「個別性」でしょうか。
例えば、文房具は同一の商品を大量生産することが可能であり、世の中に同じ文房具が供給されております。しかしながら、不動産においては例え隣りあった土地やマンションだとしても、同じ不動産ではなく、どの不動産も「この世に一つしかない」のです。
また、不動産の別の特徴として、「用途の多様性」が挙げられます。用途の多様性とは、土地の活用方法としては単純に1つではなく、住宅も建てることが出来れば、事務所やホテルでも色々な用途の建物を建築出来るということです(都市計画法上、建設可能な建物の種類は土地毎に定められているので、その点はご注意ください)。
例えば、ボールペンは書くこと、自転車は乗ることにしか使えませんが、不動産はただ住宅を建てるだけでなく、事務所ビル、ホテルや老人ホームを建設する等、色々な活用方法があるということです。
不動産の活用方法は、時代や経済動向等の影響を受ける
不動産の活用方法はその時代や経済動向等の影響を受けます。分かりやすく言うと、コロナ禍前のオリンピックブームやインバウンドブームにより、都心には数多くのシティホテル・ビジネスホテルが建設されました。
そのブームが起きる前であれば、極端に言えば都心の土地は事務所ビルを建てるか、マンションを建てるかの2択でした。
しかしながら、東京オリンピックが決定し、海外からの旅行客が増え続けることにより、土地の活用として新たに「ホテルを建設する」という選択肢が生まれたのです。それが、時代や経済動向等の影響を受けるということです。
不動産価格の決まり方
以上、不動産の特徴について簡潔に記述しましたが、「不動産価格」について説明していきたいと思います。
動産である一般の商品の価格は、どのように決まるのでしょうか。家電製品、服飾品、他には食料品等、商品を販売している小売業者が販売価格を決めるかと思います。
定価で売れると判断すれば定価で販売し、売れ行きが悪ければ、多少値引きして販売します。一般的に需要と供給のバランスで価格が決まりますが、売主(小売業者等)と買主(消費者)間で価格に関して個別交渉するケースはあまり多くないかと思います。
つまり、売主(小売業者等)から提示された金額で買主(消費者)が納得した場合には、売買が成立するものということですね。
一方、不動産価格は売主と買主の当事者間での交渉により決まります(間に仲介業者が入ることが多いですが、仲介業者は当事者のエージェント的立場であるので、やはり当事者の価格に対する考えが反映されます)。
また、新築マンションや新築建売住宅では売主である不動産会社が、動産の商品と同様に値段を提示するとは思いますが、不動産は値段が張る買い物なので、買主である皆さんは売主に対して交渉をしようと考えておりますよね?
交渉事により売買が成立する場合では、売主もしくは買主のどちらかが、不動産に対する知識がない、交渉事に弱い、またはどちらかが交渉上手であった場合等には、相場と乖離した価格で取引してしまい、どちらか一方が損を被る可能性があります。
但し、少し難しい言葉ですが、民法には「私的自治の原則」というものがあり、簡潔に言うと、5,000万円程度のマンションを1,000万円で売買しようが、1億円で売買しようが当事者の自由であり、第三者が単純には介入できるものではないのです(脱税行為などは除きます)。
5,000万円の価値があると思われるマンションを4,000万円で売った場合には、売主は1,000万円を損することになりますが、後日売主が5,000万円の価値があることを知ったとしても、「差額の1,000万円を買主に請求する」とか、「安く売らされたということで、買主や仲介業者を訴える」ということは現実的ではないのです。
不動産価格の水準を把握することは難しい
では、なぜ「不動産価格」を知らずに安く売ってしまい、もしくは高く買ってしまい、失敗してしまう人が出るのでしょうか?
それは、動産である一般的な商品の価格や、サービスの価格の水準は、いまやスマートフォン1つで簡単に調べることが出来ますが、不動産価格の水準を把握することは難しいのです。
今でこそインターネットの進展やAI(人工知能)により、不動産価格の相場を把握しやすくなっておりますが、万能であるとは言い切れないでしょう。
まとめ
一般の方にとって、不動産を売買するということは人生において何度もあることではないと思います。ですので、数少ない機会で失敗しないように、「不動産価格」の考え方を少しは身に着けておいた方がよいです。
この「不動産価格」の詳しい考え方については、次回においてお話ししたいと思います。
株式会社ケーアイティーシー マネージャー
岡野 将之(おかの まさゆき)
不動産鑑定士、宅地建物取引士
一橋大学経済学部を卒業後、住友不動産に入社。三井不動産リアルティ株式会社にて不動産鑑定士資格を取得後、事業用不動産仲介業務に従事。有限責任あずさ監査法人にて、会計監査業務支援、コンプライアンス態勢アドバイザリー業務に従事。
現在は株式会社ケーアイティーシーにて、弁護士(賃料地代増減額請求、争続問題)や税理士(相続、節税スキーム)等の各種士業と協業し、不動産鑑定評価・簡易査定業務を提供しつつ、売買仲介業務にも携わり、不動産のワンストップサービスを提供している。